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    <title>Terra Ｒomance過去ログ</title>
    <description>ファンタジー創作サイト、テラロマンスのリレー小説を納めた過去ログ倉庫です。</description>
    <link>http://terraromarog.blog.shinobi.jp/</link>
    <language>ja</language>
    <copyright>Copyright (C) NINJATOOLS ALL RIGHTS RESERVED.</copyright>

    <item>
      <title>テラロマンスシリーズ　：　イカレ帽子屋と鳳凰の国／（ゲッソー）</title>
      <description> &lt;br /&gt;
　イカレ帽子屋と鳳凰の国&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
１．&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　その手紙は、不吉な書き出しだった。&lt;br /&gt;
　「吸血鬼が吸血鬼を呼び寄せた」&lt;br /&gt;
　国家の紋章と代表者のサインがある。文末はこうだ。&lt;br /&gt;
　「速やかに調査・原因究明されたし」&lt;br /&gt;
　「……やれやれ」&lt;br /&gt;
　シルクハットの男が言った。&lt;br /&gt;
　「こちらの事情はおかまいなしですか」&lt;br /&gt;
　「うむ」&lt;br /&gt;
　男の知人が言った。&lt;br /&gt;
　「うちは情報・仲介・錬金術が専門です。ホシの目星はありますか？　こんな肉体系の仕事、すこしは手助けしていただきたいものです」&lt;br /&gt;
　「多少はある。どうだろう、帽子屋？　聞き入れてくれるだろうか？」&lt;br /&gt;
　「金貨の量で決まります」&lt;br /&gt;
　「……そうくると思ったよ」&lt;br /&gt;
　「友情はおおよそ、金で成り立つらしいですからね」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
２．　&lt;br /&gt;
　&lt;br /&gt;
　銀髪の青年は「それ」を掲げた。　&lt;br /&gt;
　「どう？　これはわりと自信作だよ」&lt;br /&gt;
　それは革の表紙だった。二つ折りを開くと、金の文字が光っていた。&lt;br /&gt;
　「偽造パスにしては、よい見栄えですね」&lt;br /&gt;
　イカレ帽子屋が言った。青年の自慢話もそこそこに、身支度を整える。そこへ、女の子がやってきた。彼女はウサ耳バンドをつけており、その美しい顔を映えさせていた。&lt;br /&gt;
　「通行書が完璧でも、持ってるやつがうさんくさい」&lt;br /&gt;
　女の子が言った。&lt;br /&gt;
　「それは遠まわしに私が社会不適合者と言いたいのですか？」&lt;br /&gt;
　「そうよ」&lt;br /&gt;
　「手厳しいお言葉を。それはそうと、通行書をこちらへ」&lt;br /&gt;
　銀髪の青年から偽造通行書を受け取った。飴色のカバンを閉め、杖を握る。女の子は杖を見て、嫌そうな顔をした。&lt;br /&gt;
　「あたしの仕込み杖……」&lt;br /&gt;
　「似合いますか？」&lt;br /&gt;
　「超最悪」&lt;br /&gt;
　かつて二人はコンビだった。それがいまや、険悪な空気になっている。第三者がいたら、窒息したかもしれない。&lt;br /&gt;
　「アンタがいくところ、コモンウェルズだったわよね？」&lt;br /&gt;
　「ええ、そうですとも」&lt;br /&gt;
　「ものすっごい閉鎖的な場所なのよ。アンタ、知ってるの」&lt;br /&gt;
　「いえ、まったく」&lt;br /&gt;
　「こういう依頼が一番厄介なのよ。国が絡むのよ、国が！　ろくなことないわ」&lt;br /&gt;
　「後の祭りです。依頼は完遂します。それでは」&lt;br /&gt;
　会話を背にして、扉に向かった。部屋を出る前に、そのあざとい瞳を仲間に向けた。&lt;br /&gt;
　「留守中はお気をつけてください」&lt;br /&gt;
　「うん。イカレ帽子屋も気をつけて」&lt;br /&gt;
　「アンタこそ、気をつけなさい」&lt;br /&gt;
　ドアをでるとき、三日月の微笑を浮かべた。彼はそのまま、去っていった。　&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
３．&lt;br /&gt;
　大陸横断鉄道を下車して北東へ。スズナ山脈の一角にある検問所を抜けたさき、ここは断崖の国コモンウェルズだ。自然環境が厳しいこの国は、全国民が鳳凰を信仰していた。閉鎖的な風土であり、外から様子はうかがい知れなかった。&lt;br /&gt;
　そこへ青年がやって来た。&lt;br /&gt;
　「ここが断崖の国の入り口か」&lt;br /&gt;
　絶壁にそびえる家々と、風に耐える針葉樹が見えた。&lt;br /&gt;
　「なんていうか、でかいな」&lt;br /&gt;
　町の表通りを辿っていくと、広場に着いた。辺りを見渡すと、少女が目に留まった。彼女は豪華な服装で、宗教関係者らしかった。&lt;br /&gt;
　「こんにちは、お嬢さん」&lt;br /&gt;
　「あ、はい。こんにちは……？」&lt;br /&gt;
　「俺はウピエル。見ての通り、旅のものさ。女王様に用事があるんだ」&lt;br /&gt;
　「女王様に、ですか」&lt;br /&gt;
　「そう。頼まれごとなんだ。いそがなきゃならない。神殿を探しているんだが、どこにあるんだい？」&lt;br /&gt;
　少女に紋章入りの手紙を渡した。すると彼女は安堵した表情をした。&lt;br /&gt;
　「そうだったんですか。私はこれから神殿に行くところでした。よければ一緒に来てください」&lt;br /&gt;
　「そうかい。それじゃ頼む。ちなみに神殿はどの辺りにあるんだい？」&lt;br /&gt;
　「あちらです」&lt;br /&gt;
　指差した先は、山頂だった。&lt;br /&gt;
　「ちょっと遠いな。ま、よろしく頼む」&lt;br /&gt;
　二人は歩いていった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
４．&lt;br /&gt;
　少女の名前はリーゼロッテといい、神殿の巫女だった。祭事の雑用や、病人やけが人の世話が仕事らしい。やがて神殿に着いたとき、ウピエルが言った。&lt;br /&gt;
　「へぇ、こいつが神殿か」&lt;br /&gt;
　冠に炎を頂き、重厚な気配をかもし出している。&lt;br /&gt;
　「案内ありがとな。助かったよ」&lt;br /&gt;
　「……」&lt;br /&gt;
　思い悩んだ表情をしていた。言葉も聞こえていない様子だ。&lt;br /&gt;
　「リズちゃん？」&lt;br /&gt;
　「え？　あ、ごめんなさい。考え事をしていました」&lt;br /&gt;
　「そうかい。案内サンキュな。おかげで迷わずにすんだわ」&lt;br /&gt;
　「いいえ。私も戻ってくるところでしたから。それよりもウピエルさん。ちょっとお願いが……」&lt;br /&gt;
　「なんだい？」&lt;br /&gt;
　そこへ、男がやってきた。&lt;br /&gt;
　「お帰りなさいませ、リーゼロッテさま」&lt;br /&gt;
　貫頭衣を着ており、ハルバードとラウンドシールドを握っている。おそらく衛兵なのだろう。&lt;br /&gt;
　「そちらの方は、ウピエル様でしょうか？」&lt;br /&gt;
　衛兵が言った。何気なくリーゼロッテの手を取ろうとすると、彼女はうまく避けた。彼は顔をひきつらせた。&lt;br /&gt;
　「ウピエル様。ご本人であれば」&lt;br /&gt;
　衛兵が言った。&lt;br /&gt;
　「女王様からのお手紙をみせてください」&lt;br /&gt;
　衛兵の物言いはトゲがあり、節々に嫌みなイントネーションがあった。ウピエルは「貴族のボンボンか何か」と思い、受け流すことにした。&lt;br /&gt;
　「ああ。こちらです」&lt;br /&gt;
　「ふむ……」&lt;br /&gt;
　時間をかけて手紙を見た。偽造でないことを確かめたかったのだろう。&lt;br /&gt;
　「あちらです」&lt;br /&gt;
　神殿の奥を指差した。&lt;br /&gt;
　「まっすぐ行くと謁見の間があります。どうぞお進みください。ではリーゼロッテさま。お部屋にお連れしましょう」&lt;br /&gt;
　「え……そんな……」&lt;br /&gt;
　リーゼロッテが言った。ウピエルは嫌そうな表情を見た。&lt;br /&gt;
　「おいおい、この国はろくな対応をしないな」&lt;br /&gt;
　ウピエルが言った。&lt;br /&gt;
　「ちゃんと案内してもらおう」&lt;br /&gt;
　「……」&lt;br /&gt;
　「どうなんだ？」&lt;br /&gt;
　「失敬しました。こちらへどうぞ」&lt;br /&gt;
　「ああ、そうしてくれ。それじゃ、リーゼロッテちゃん、またな」　&lt;br /&gt;
　「はい、また後で」&lt;br /&gt;
　リーゼロッテが言った。&lt;br /&gt;
　「ウピエル様」&lt;br /&gt;
　衛兵が言った。&lt;br /&gt;
　「女王様がお待ちです。お急ぎください。置いていきますよ」&lt;br /&gt;
　「わるいわるい」&lt;br /&gt;
　これだから人をからかうのは面白い、ウピエルはそう思った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
５．&lt;br /&gt;
　正午の鐘と同時に、ウピエルは謁見の間に着いた。両開きの扉には、鳳凰が舞う姿が刻んである。両脇に衛兵が待機していた。&lt;br /&gt;
　「女王様から呼び出されたウピエルっていうものだ。通してもらえるかい？」&lt;br /&gt;
　「手紙をお見せください」&lt;br /&gt;
　「これだ。偽造じゃないぜ」&lt;br /&gt;
　「たしかに。どうぞお通りください」&lt;br /&gt;
　何かの操作をしたのか、扉が自然と開いた。ウピエルが入ると、閉まった。すると奥から声がした。鈴の音色のような声だった。&lt;br /&gt;
　「ウピエル殿、ようこそ我がコモンウェルズへ」　&lt;br /&gt;
　リーゼロッテの話だと、この十年来、女王マルガリータの美貌は衰えなかったらしい。鳳凰の加護だそうだ。ウピエルの見たところ、絶世の美女、それも男を悩ましてやまない、魔性の美貌だった。&lt;br /&gt;
　「ご用件は事件の解決だそうで？」&lt;br /&gt;
　「その通りです。わが国で起きている事件を調査し、解決してください」&lt;br /&gt;
　「おいおい、そんだけかよ。アバウトすぎだぜ」&lt;br /&gt;
　「依頼は受けていただけと存じます。まさかお心変わりされましたか。ウピエル殿ともあろうものが」&lt;br /&gt;
　「この……」&lt;br /&gt;
　「一週間はこちらで宿を手配します。その間に解決してください」&lt;br /&gt;
　「偉そうな話だな」&lt;br /&gt;
　「報酬はお望みどおりに用意いたします」&lt;br /&gt;
　「やれやれ……」&lt;br /&gt;
　「あなたが賢明で助かります。何か分かったら、報告に来てください」&lt;br /&gt;
　後ろで扉が開いた。&lt;br /&gt;
　「へいへい、わかりましたよ。まあ、期待しないでまってておくんなさい」&lt;br /&gt;
　&lt;br /&gt;
６．&lt;br /&gt;
　ウピエルはカジノに来ていた。ディーラーが卓上の賭けを配当している。積みあがった金貨とチップに、ギャラリーは興奮していた。すこし勝ちすぎたかもしれない。店員の目つきが鋭くなった。そろそろ手段を選ばなくなるころだ。&lt;br /&gt;
　「どうすっかな」&lt;br /&gt;
　「赤に入れなさい」&lt;br /&gt;
　誰かが言った。&lt;br /&gt;
　「だれだい？」&lt;br /&gt;
　後ろにはシルクハットの男がいた。帽子の隙間から覗く肌は、病的に青かった。&lt;br /&gt;
　「いつの間にそこに？」&lt;br /&gt;
　「ずっと前からです」&lt;br /&gt;
　「存在感ないな、あんた。クラスで手を上げたとき、数えてもらえないタイプだろ」&lt;br /&gt;
　「残念ながら学校出の経歴はないんですよ。でもお察しの通り、ギルドの集会ではしょっちゅう無視されます」&lt;br /&gt;
　「面白いやつだな、あんた」&lt;br /&gt;
　「驚かないんですね。さすが長く生きてらっしゃる。年の功ですかね」&lt;br /&gt;
　「顔に出ないだけさ。けっこう小心者でね」&lt;br /&gt;
　「あなたが小心者というなら、世の人々は蟻一匹ほどの心もないでしょう」&lt;br /&gt;
　「とりあえず」&lt;br /&gt;
　ウピエルが言った。&lt;br /&gt;
　「お友達になりたいなら自己紹介といこうや」&lt;br /&gt;
　「イカレ帽子屋と申します。詳しくは後ほど。それと、赤に入れることを忘れずに。では」&lt;br /&gt;
　煙のように気配が消えた。&lt;br /&gt;
　「赤に、ね……」&lt;br /&gt;
　チップを全て赤に乗せた。ギャラリーが歓声をあげるなか、ディーラーだけがほくそ笑んでいた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
７．&lt;br /&gt;
　「大勝だ。あんたのおかげだぜ」&lt;br /&gt;
　ウピエルが言った。&lt;br /&gt;
　「んで、イカレ帽子屋さんよ。なにが悲しくて密室にいるわけ？」&lt;br /&gt;
　「別に私は悲しくないので、お気遣いなく」&lt;br /&gt;
　「俺は悲しいんだけどね」&lt;br /&gt;
　「人に聞かれると困る話題ですので」&lt;br /&gt;
　イカレ帽子屋が言った。笑顔で対応する声は、客商売の鏡だった。しかしその顔は、見るものを不安にさせる笑みが浮かんでいた。&lt;br /&gt;
　「吸血鬼が吸血鬼を呼び寄せた、だそうですよ」&lt;br /&gt;
　「なんだって？」&lt;br /&gt;
　「コモンウェルズ、子供だけが焼死する連続発火事件です。百年単位で数十件が起こり、外部調査の者がことごとく消え去る、というものです。ご存知、ありませんか？」&lt;br /&gt;
　帽子屋の話は、事件の真相だった。ウピエルは人間の執念を感じて、その恐ろしさを垣間見た。&lt;br /&gt;
　「それが本当なら、この国の王族は、ある意味」&lt;br /&gt;
　ウピエルが言った。&lt;br /&gt;
　「どんな人間より人間らしく、そしてどんな化け物よりも化け物だ。んで、こんだけの情報を無償で提供してくれるほどのお人よしじゃないよな」&lt;br /&gt;
　頬杖をついて返答を待った。&lt;br /&gt;
　「私は情報収集がメインでして。戦力がほしいのです」&lt;br /&gt;
　笑顔は全く崩れない。堂に入ったポーカーフェイスだ。&lt;br /&gt;
　「ふーん」&lt;br /&gt;
　睨んでも、真意を読み取れなかった。黙考のすえ、決断をした。&lt;br /&gt;
　「いいだろう。その話、乗った。ただし、一応裏は取らせてもらうけどな」&lt;br /&gt;
　「裏を取る、と言いますと？」&lt;br /&gt;
　「忍び込むのさ。あんたが話した、『病院』とやらにな」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
８．&lt;br /&gt;
　夜陰に乗じて、ウピエルは『病院』に侵入した。ここは病気や怪我をした人間を治療する場所とは、少し違う施設だった。帽子屋が語ったことが真実なら、ここは執念の魔窟ともいうべき建造物である。&lt;br /&gt;
　「ここか」&lt;br /&gt;
　扉には特別病棟・関係者以外立ち入り禁止、と書いてあった。厚い錠前が取り付けてある。&lt;br /&gt;
　「ごくろうなこった」&lt;br /&gt;
　先ほど打ち倒した倒れた護衛を見た。鍵とおぼしきものを、腰から下げている。&lt;br /&gt;
　「朝までゆっくりおねんねしてくんな」&lt;br /&gt;
　　錠前を掴んで引っ張った。鍵は外れ、床に転がった。&lt;br /&gt;
　「さて、なにがあるんだ」&lt;br /&gt;
　扉を開けたとき、泣き声が聞こえた。赤ん坊のすすり泣きや、狂ったような叫びもする。&lt;br /&gt;
　「なんだ、これ？」&lt;br /&gt;
　部屋の光景が、ウピエルを戦慄させた。それは地獄の火の海のような光景だった。全身が焼けただれた、子供たちが転げまわっていたのだ。&lt;br /&gt;
　イカレ帽子屋の話が頭に浮かんだ。コモンウェルズの先祖は不死を願い、かつて崇めていた火の鳥を食らった。しかし不死を得られず時が過ぎ、ある時を境に異変が起きた。鳳凰の遺伝子が体に食い込み、後生に伝わったのだ。火の鳥の火炎がよみがえり、唐突に燃え上がることが、起きるようになった。理由は不明だが、成長期の子供が自然発火するのだ。この部屋は、発火した子供を隔離する場所だった。&lt;br /&gt;
　「ふざ……」&lt;br /&gt;
　　背を向ることが出来なかった。うめきのなかで、行き場のない怒りが湧いた。しばらく、立ち尽くした。やがて意を決して扉をしめ、その場を後にしたのだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
９．&lt;br /&gt;
　翌朝、ウピエルはノックで目を覚ました。&lt;br /&gt;
　「おはようございます」&lt;br /&gt;
　リーゼロッテが言った。心なしか、呼吸が荒い。&lt;br /&gt;
　「おう、あんたか。俺様にご用か？」&lt;br /&gt;
　彼女に紅茶を淹れると、ベッドに腰掛けた。&lt;br /&gt;
　「ま、その椅子に座るといい」&lt;br /&gt;
　「すいません、失礼します。こんな朝早くに、本当に申し訳ありません」&lt;br /&gt;
　「いや、むしろ早起きは三文の得さ。起こしてくれてありがとうよ」&lt;br /&gt;
　「う……」&lt;br /&gt;
　「大丈夫か？」&lt;br /&gt;
　「ええ、心配ありません。しんぱいありません……」&lt;br /&gt;
　突然、倒れこんだ。こぼれた紅茶が手にかかり、蒸発した。&lt;br /&gt;
　「おい、しかっりしろ」&lt;br /&gt;
　額に触れると、火傷するほど熱かった。ウピエルの頭に、病院の光景がよぎった。このままでは、発火するかもしれない。ウピエルは厨房へ向かった。袋にありったけの氷を詰めて、部屋へ走った。すると、入り口にイカレ帽子屋が立っていた。&lt;br /&gt;
　「おい、あんた。手伝ってくれ」&lt;br /&gt;
　「無論です」&lt;br /&gt;
　「助かるぜ」&lt;br /&gt;
　リーゼロッテをベッドに寝かせ、氷を添えた。&lt;br /&gt;
　「私、死んじゃうのでしょうか？」&lt;br /&gt;
　リーゼロッテが言った。&lt;br /&gt;
　「このままでは、そうなるでしょうね」&lt;br /&gt;
　帽子屋が言った。&lt;br /&gt;
　「死が怖いのですか？」&lt;br /&gt;
　「……」&lt;br /&gt;
　呼吸も苦しいのか、返答もままならない。&lt;br /&gt;
　「あなたは、終わる」&lt;br /&gt;
　帽子屋が言った。&lt;br /&gt;
　「そして別のモノが始まるでしょう」&lt;br /&gt;
　「別の、モノ？」&lt;br /&gt;
　「あなたの体内では、太古の生物の遺伝子が発現したのです。そしてあなたを組み替えているのです。生きながら別のモノに変わる気分はどうですか？」&lt;br /&gt;
　「教えてください」&lt;br /&gt;
　「なにをでしょうか」&lt;br /&gt;
　「私たちの知らないことを、です。見てください」&lt;br /&gt;
　腕を捲り上げると、黄金の羽毛が現れた。&lt;br /&gt;
　「五年ほど前のことです。私は父さんと母さん、そして三人の妹と暮らしていました。そのころは、空を飛ぶ夢をよく見ていました。ある朝、目が覚めるとこれが生えていました。女王様の衛兵が私を『選ばれた者』として、神殿まで連れて行きました。女王様は、私が仕えるなら家族に有り余る食事と水を与える約束をしてくださいました」&lt;br /&gt;
　「ふむ」&lt;br /&gt;
　よく見れば、リーゼリットの瞳は細い虹彩があった。まるで本当の鳥のようだった。&lt;br /&gt;
　「私は、これからどうなるか分かっています」&lt;br /&gt;
　リーゼリットが言った。&lt;br /&gt;
　「……鳳凰になっても、神様になっても、父さんや母さんを覚えていられるのでしょうか？」&lt;br /&gt;
　うっすら涙を浮かべ、大粒となった。&lt;br /&gt;
　「申し訳ありません。それに関する知識はございません」&lt;br /&gt;
　帽子を深くかぶり、すすり泣きをただただ聞いていた。&lt;br /&gt;
　　&lt;br /&gt;
１０．&lt;br /&gt;
　「これはこれはウピエル殿。かような慌て方、いかがなさいました」&lt;br /&gt;
　女王が言った。&lt;br /&gt;
　「女王陛下、報酬はお命でいただきましょう」&lt;br /&gt;
　広間に護衛兵のうめき声がする。一人残らず、戦意を失って倒れていた。&lt;br /&gt;
　「事件は解決しましたか？」&lt;br /&gt;
　「これから解決する」&lt;br /&gt;
　ウピエルが言った。短剣を抜き、女王に放った。音速に迫る速度だったが、女王はそれを避けた。&lt;br /&gt;
　「子供が『再生』の遺伝子を覚醒させ、大人が『不死』の遺伝子を覚醒させるんだろ」&lt;br /&gt;
　「ウピエル殿、それは誤解だ。不死とは死なぬことよ。それは『再生』の遺伝子が完全でなければならない。我らの『不死』など時間稼ぎ。数度心臓を失えば事切れる」&lt;br /&gt;
　広間に兵士が集まってきた。&lt;br /&gt;
　「能書きはいい。リーゼリットの治し方を教えろ。でないと、次は本気でやるぞ」&lt;br /&gt;
　短剣の切っ先を女王に向けた。&lt;br /&gt;
　「治る？　これは病気ではない。進化だ。　我らは人と神をつなぐリングなのだ。我らは新たな神となるのだ」&lt;br /&gt;
　「笑える話だ。てめぇの神様ごっこでどれだけ子供が死んだ？」&lt;br /&gt;
　女王の余裕が不可解だった。自分を侮っているのだろうか。&lt;br /&gt;
　「駒の配置が逆になってしまいましたが、まあいいでしょう。リーゼリットは祭壇にささげられたはずです」　&lt;br /&gt;
　「なんだと？」&lt;br /&gt;
　「外の国々が邪魔を送ったことは知っている。あの喪服男は我らの内情を通敵するためにやってきたのだ。鳳凰を狙う魂胆が透けて見えるわ」&lt;br /&gt;
　その顔は歪み、醜かった。&lt;br /&gt;
　「だがわが国は鳳凰を目覚めさせていない。だからあの喪服男は『神』の可能性のあるリーゼリットに近づこうとしたが、お前が先に接触していたということだ。あの男の狙いはお前の注意を我らに向け、自分はのうのうと神を覚醒させ、その情報を売りさばくことなのだよ」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
１１．&lt;br /&gt;
　帽子屋は山登りをしていた。幅の細い岩山で、聖域とされる場所だった。&lt;br /&gt;
　「……帽子屋さん」&lt;br /&gt;
　リーゼリットが言った。&lt;br /&gt;
　「ごめんなさい……少し……」&lt;br /&gt;
　「さすがにその熱では辛いですか」&lt;br /&gt;
　「へ、平気です……」&lt;br /&gt;
　衣服を引きずり、熱っぽい呼吸をする。&lt;br /&gt;
　「おそらくあなたは」&lt;br /&gt;
　帽子屋が言った。&lt;br /&gt;
　「すでに覚醒しています。人間の意識があることが、驚異的です。お辛いでしょう」&lt;br /&gt;
　「帽子屋さん、おっしゃいましたよね。誰か……だれかが神様になれば、発火現象は収まるって」&lt;br /&gt;
　「もちろん。私の仮説によるところ、鳳凰が復活すれば遺伝因子は安定し、発火現象は治まります。リーゼリットさん、しばらくガマンできますか？」&lt;br /&gt;
　「なんとかがんばります」&lt;br /&gt;
　笑顔を浮かべた。まるで清流のように澄んでいた。&lt;br /&gt;
　「ちょっと失礼します」&lt;br /&gt;
　「わっ」&lt;br /&gt;
　少女をおぶって階段を駆け上がる。リーゼリットはもぞもぞしたが、すぐぐったりした。&lt;br /&gt;
　「帽子屋さん。ウピエルさんに、ありがとうって……伝えてください」&lt;br /&gt;
　「ええ、必ずや」&lt;br /&gt;
　「ウピエルさん、大丈夫かしら」&lt;br /&gt;
　「あの男は心配ありません」&lt;br /&gt;
　帽子屋が言った。&lt;br /&gt;
　「彼は吸血鬼です」&lt;br /&gt;
　「え？」&lt;br /&gt;
　「本物の吸血鬼ですよ。並外れた戦闘力の男です」&lt;br /&gt;
　「はあ……」&lt;br /&gt;
　朦朧とする頭では、理解できなかった。しかしその様子から、心配ないことだけは分かった。&lt;br /&gt;
　やがて最上階に到着した。密度の高い地質であり、正面に祭壇があった。&lt;br /&gt;
　「さて」&lt;br /&gt;
　リーゼリットを広間におろした。そのとき、殺気を感じた」&lt;br /&gt;
　「女王陛下も口ほどにもない。先回りされてしまいました」&lt;br /&gt;
　三日月の笑みを浮かべ、前方をみた。そこには、ウピエルが立っていた。&lt;br /&gt;
　「何かいいてぇ事はあるか」&lt;br /&gt;
　しばらく、風の音だけがした。&lt;br /&gt;
　「あの、ウピエルさん……ちがうんです」&lt;br /&gt;
　リーゼリットが言った。&lt;br /&gt;
　「もういい。寝てろ」&lt;br /&gt;
　瞳が赤く光った。するとリーゼリットは倒れ伏した。&lt;br /&gt;
　「魔眼とは大げさな。貴方も容赦しませんね」&lt;br /&gt;
　「信じてたモンに裏切られるってのは辛いもんさ。夢でも見せとくのが優しさってもんだろう？」&lt;br /&gt;
　「おや、私は彼女の意志を尊重しただけですが。裏切りとは心外ですね」&lt;br /&gt;
　「誘導しておいて、なに言ってる」&lt;br /&gt;
　「知ってどうするのですか？　ここでは吸血鬼の力は、満足に発揮できないでしょう」&lt;br /&gt;
　階段に歩き出した。両手を広げ、まるで俳優のようだ。&lt;br /&gt;
　「この祭壇は鳳凰の死骸で出来ている。彼女が来て、力を取り戻しつつある。そして貴方は、生命の中では力を使えない。……魔眼で力を消耗したでしょう？　通常はすぐ回復しても、ここでは違う。ただ一人の少女のために、ここで命を散らすのですか？」&lt;br /&gt;
　「言いてえことはそれだけか？」&lt;br /&gt;
　ストレートを放つと、暴風が起きた。帽子屋の前髪をはじき、首を飛ばすように見えた。&lt;br /&gt;
　「おお、こわい」&lt;br /&gt;
　バックステップで避けた。&lt;br /&gt;
　「私は情報戦が専門だといいますのに」&lt;br /&gt;
　「女王が何を企もうが」&lt;br /&gt;
　体を回転させ、左フックを放った。ところがまたも外れた。&lt;br /&gt;
　「知ったこっちゃねえ。てめえのやりくちもガマンならねえ」&lt;br /&gt;
　「おそろしやおそろしや」&lt;br /&gt;
　仕込杖の剣を抜いた。剣先をウピエルに向け、構えた。まったく隙がない。　&lt;br /&gt;
　「やってみな」&lt;br /&gt;
　「お言葉に甘えて」&lt;br /&gt;
　心臓めがけて突きを放った。するとウピエルは横に跳ね、間合いから外れた。&lt;br /&gt;
　「おっと！　こんどはこっちの番だぜ」&lt;br /&gt;
　獣のような速度で飛び込み、帽子屋に拳を打った。帽子屋はステップを踏んでかわした。&lt;br /&gt;
　遠くから見るとまるで舞のようだった。予定調和をいなしあう、無限連鎖の幻想だった。　&lt;br /&gt;
　「ほっほっほ。やっとるのう」&lt;br /&gt;
　祭壇の入り口に、化け物が現れた。&lt;br /&gt;
　「どうした。豆鉄砲をくらった鳩のような顔なんぞしおって」&lt;br /&gt;
　顔は人だが、体は鳥だった。腕はなく、羽が生えている。&lt;br /&gt;
　「わらわが姿を見せるなど、数百年ぶりのこと。幸運と思え」&lt;br /&gt;
　「お前は……女王か！」&lt;br /&gt;
　ウピエルが言った。　&lt;br /&gt;
　「吸血鬼ウピエルよ。娘を渡してもらうぞ。その血肉を食らって、ついに神となるのじゃ」&lt;br /&gt;
　「女王様」&lt;br /&gt;
　帽子屋が言った。&lt;br /&gt;
　「なんじゃ帽子屋。褒美なら後で望むままとらせようぞ。それともわらわがウソをついたと憤っておるのか。巫女を祭壇の間へ連れて行けば、神となり救われる。そう申したことがウソだったと」&lt;br /&gt;
　「さようでございます」&lt;br /&gt;
　「言いがかりもいいところじゃ。事実、巫女はわらわの血肉となるのじゃ。神の血肉であるぞ。これを救いと呼ばずになんと呼ぶ」&lt;br /&gt;
　少女の心臓をえぐりだし、かじりついた。いつの間にか風もやみ、まるで時が止まったかのようだった。&lt;br /&gt;
　「ふふふ。はっはっはっは！　力が、力が流れ込んできよるわ」&lt;br /&gt;
　踊り場に立つ帽子屋を見た。&lt;br /&gt;
　「さて、褒美をくれてやろう。神の力を存分に味わうがいい」&lt;br /&gt;
　炎が手に集まり、球状となる。全てを焼くという、鳳凰の炎だ。&lt;br /&gt;
　「おい」&lt;br /&gt;
　ウピエルが言った。&lt;br /&gt;
　「どうせなら俺様を呼んだ理由を教えてもらいたいね」&lt;br /&gt;
　「冥土の土産がほしいか。汝を呼んだのは、化け物の分際で永世を生きることが許せなかったからじゃ。不死は神のみの特権なるぞ。よってわらわが直々に断罪してやろうというのじゃ」&lt;br /&gt;
　「なるほど。つまり俺様がうらやましかったんだな」&lt;br /&gt;
　「なんじゃと」&lt;br /&gt;
　「神だのなんだの、意味はねえんだろ？　アンタは長生きがしたかった。そのためにそんな醜い姿にもなった。なのに俺様はあっさり不死を得ている。嫉妬は醜いぜババァ」&lt;br /&gt;
　「お前なんぞに何が分かる。偉そうに語るな。化け物風情が」&lt;br /&gt;
　炎は勢いを増し、生き物のように波打った。&lt;br /&gt;
　「なあ、そろそろだよな？」&lt;br /&gt;
　「ええ」&lt;br /&gt;
　世間話のように気軽だ。女王は何かがおかしいと思った。しかしもう遅かった。&lt;br /&gt;
　「目覚めろ」&lt;br /&gt;
　ウピエルが言った。すると、すさまじい炎がリーゼロッテを包んだ。&lt;br /&gt;
　「何をした！？」&lt;br /&gt;
　女王が言った。&lt;br /&gt;
　「力が……力が吸い取られるじゃと！？」&lt;br /&gt;
　羽毛が抜け落ち、肌にシワが現れる。堂々たる女王の姿は、忽ち消えた。&lt;br /&gt;
　「力はより大きな力に飲み込まれるのですよ。あなたが何人欠片をもつ子供を取り込もうと、本物にはかなわなかったのです」&lt;br /&gt;
　「バカな。わらわは神の力を手にしたはずじゃ」&lt;br /&gt;
　鈴のような声も、いまや錆び付いた。祭壇によろめき、膝から崩れた。そのとき、リーゼリットが炎を発した。全てを癒すかのような、優しい炎だった。&lt;br /&gt;
　「認めん。わらわは認めんぞ」&lt;br /&gt;
　絶叫を発し、姿を消した。より一層炎は燃え上がる。罪を蒔きにして炎は紅く、美しく、激しくなった。&lt;br /&gt;
　「女王よ。実に美しい。さぞお喜びと存じます」&lt;br /&gt;
　「そりゃ綺麗だろう。数千の呪いと生贄の集大成だぜ」&lt;br /&gt;
　リーゼリットを抱き起こした。ぐったりしてるが、特に異変はないようだ。一安心した時、かん高い声が響いた。&lt;br /&gt;
　「なんだ、あれ？」&lt;br /&gt;
　　赤い光と火の粉が舞う。その先には、鳥らしき影があった。歌のような、叫びのような声を発して、飛び去り、朝焼けに隠れてしまった。&lt;br /&gt;
　ウピエルも帽子屋も、無言だった。&lt;br /&gt;
　「生で神サマを見たのは初めてですよ」&lt;br /&gt;
　「まあ……ほんとにナマモノだとはな」&lt;br /&gt;
　会話をしていると、リーゼリットが眼を開けた。&lt;br /&gt;
　「あ、あれ？」&lt;br /&gt;
　「残念でしたね」&lt;br /&gt;
　帽子屋が言った。&lt;br /&gt;
　「あなたはハズレだったようです」&lt;br /&gt;
　「なんつー言い方すんだよ」&lt;br /&gt;
　明け方の空は青く、さっきの赤い光がウソのようだ。&lt;br /&gt;
　「あの、女王様は？」&lt;br /&gt;
　「ババアはそこだ」&lt;br /&gt;
　灰の塊を指した。リーゼリットはよく分からない様子だ。&lt;br /&gt;
　「なんだか、あっという間でした」&lt;br /&gt;
　親玉の女王は滅んだ。しかしこの国はどうなるのか。子供を失った親はどうするのか。先行きは暗澹としている。&lt;br /&gt;
　「いままで女王が神でした。あの悪玉がね」&lt;br /&gt;
　帽子屋が言った。&lt;br /&gt;
　「これからは頑張ることは報われますよ。きっと……」&lt;br /&gt;
　&lt;br /&gt;
１２．&lt;br /&gt;
　数日後、帽子屋はアジトに戻っていた。後片付けをしていると、少女が言った。&lt;br /&gt;
　「ところでアンタ、どうやってそんな情報を売るの？　まさか自分で見ただけですって、目撃談だけ？」&lt;br /&gt;
　「あ……。ええ、その通りです」&lt;br /&gt;
　「ばかー！　またタダ働きじゃないのー！」&lt;br /&gt;
　あの知人をどうやって丸め込もう。汗が滴る帽子屋だった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿</description> 
      <link>http://terraromarog.blog.shinobi.jp/%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81%EF%BC%88%E3%83%AA%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%EF%BC%89/%E3%83%86%E3%83%A9%E3%83%AD%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%80%80%EF%BC%9A%E3%80%80%E3%82%A4%E3%82%AB%E3%83%AC%E5%B8%BD%E5%AD%90%E5%B1%8B%E3%81%A8%E9%B3%B3%E5%87%B0%E3%81%AE%E5%9B%BD%EF%BC%8F%EF%BC%88%E3%82%B2%E3%83%83%E3%82%BD%E3%83%BC%EF%BC%89</link> 
    </item>
    <item>
      <title>カットスロート・デッドメン　8／ライ（小林悠輝）</title>
      <description>PC：タオ, ライ&lt;br /&gt;
場所：シカラグァ・サランガ氏族領・港湾都市ルプール　-　船上&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
------------------------------------------&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「……なんていうか」ライは状況に相応しい言葉を探したが、どうも自分の語彙には見当たらなかったので、どうでもいいことを言うことにした。「幽霊に海賊に密航者にって、船旅の楽しみフルコースだよね」&lt;br /&gt;
「きみはジョークのセンスがないな」モスタルグィアのエグバートが鋭く言った。&lt;br /&gt;
「うるさいなぁ。きっと今は、場を盛り上げるよりは白けさせた方がいい時なんだよ。ねえ、そこのおじさん。どっちが正しいと思う？」&lt;br /&gt;
「は？」急に話を振られた乗客は目を白黒させたが、このくだらない会話にはあまり乗り気でないようだった。室内には敵意が充満している。この視線を向けられているのが自分でなくてよかったと考えながら、ライは騒ぎを見学することにした。&lt;br /&gt;
　手を出すにしろ放っておくにしろ、まずは状況判断だ。狂気に駆られた乗客が寄ってたかって密航者を八つ裂きにするというのは好ましくない自体だが、元より、密航は発見されればその場で海に放り込まれるものと決まっている。女であれば、秘密裏に奴隷商人に売り渡す船もあるかも知れないが。&lt;br /&gt;
　この船は、奴隷商人がいる港までは辿り着けないだろう。&lt;br /&gt;
　殺せと誰かが言った。海の神だの何だのと、それは船員たちの迷信であり、出発前までは乗客たちはそれを嘲笑っていたにも関わらず。踞る少女の前に立ちふさがる神父が彼らを止めていた。&lt;br /&gt;
「詩人殿は、どうする？」エグバートが呑気に尋ねた。口調には、幾らかの傲慢さが含まれていた。それは檻の鼠を眺める観察者のものに近かったが、残念なことに彼もまた檻の中にいる。本人が気づいているかどうかは知らないが。&lt;br /&gt;
「あなたは？」ライは周囲の音を意識から締め出してから問い返した。これは心臓が動いていた頃よりも随分と上手くできるようになったことの一つだ。&lt;br /&gt;
「さあ。こういう時、東部の人間はどのような行動を起こすのだろうか？」&lt;br /&gt;
「……シカラグァ人を、文明の遅れた蛮族だと思っているね」ライは声に、批難ではなく呆れを含ませて言った。&lt;br /&gt;
　エグバートは肯定せずに笑った。「彼らの国家は、野蛮な血筋からなる部族の集合体に過ぎない。近代まで続いた彼らの争いによって王朝は頻繁に代わり、文化は成熟しなかった。未だ、体に布を巻き付けるだけのものを衣と呼び、木の根を煮ただけのものを料理と呼んでいる」ライは遮った。苦笑で告げる。「これが教師とは、生徒が可哀そうだ」&lt;br /&gt;
　エグバートは無言で苦笑を返した。&lt;br /&gt;
　騒ぎに意識を戻すと音が戻った。罵声ばかりの膠着状態は続いていたが、ライは先程よりは密航者に好意的になっていた。神父がこちらにさっさと手伝え的な恨みがましい視線をちらちらと向けてきていたし、放っておいては隣の傲慢な男と同類になりかねない。&lt;br /&gt;
　この場で一人くらい切り倒せば静かになるだろう。馬鹿な思いつきと同時に、自分がまだ抜き身の剣を持ったままでいることに気づいた。ライは手の中で柄を回し、剣を空に溶かした。&lt;br /&gt;
　無頓着に、神父と少女へ近づいていく（生身だったら絶対にやらないが）。状況の変化に、騒いでいた乗客たちの声のトーンが僅かに落ちた。結局、自分もある程度は怖がられているのだろう。もう少し怖がらせれば黙るかも知れない。&lt;br /&gt;
「楽しそうだね」&lt;br /&gt;
「主は我らに苦難ばかりを賜る」&lt;br /&gt;
「それを喜んで受け入れるのが聖職者でしょ？」&lt;br /&gt;
「残念ながら私はマゾヒストではありません」神父はきっぱりと言った。ライは思わず笑った。周囲の空気は一向によくならないが。&lt;br /&gt;
「上で」ライは笑いながら、しかし叩きつけるように言った。「傭兵や船員が死に物狂いに戦ってる。何人かは死んだ」&lt;br /&gt;
　乗客たちは不穏な言葉にざわめいた。「ここに、この、痩せて、薄汚れた、惨めな子供を殴り殺せるような勇気のある戦士がいるなら、今すぐ甲板に上がって彼らを助けるべきだと思うけどね」&lt;br /&gt;
「黙れ、こいつのせいで海の女神が――」&lt;br /&gt;
「たかが女だろ!?」ライは怒鳴り返した。神父がぎょっとした顔をした。「女神だろうが密航者だろうが、どっちも女だ。片方が怖くて片方は怖くない？　大の男が笑わせるな。大体、ここにはイムヌスの神父がいる。異教狩りの専門化じゃないか。彼は少女殺しよりもっといい方法を知っている。密航者を殺すより、こいつを甲板に叩き出すのを先にした方がいい」&lt;br /&gt;
　神父は批難の目を向けた。「……幽霊詩人殿、私は異端審問官では……」&lt;br /&gt;
「本当に？」ライは苛立から鋭く問い返した。とりあえずこの場をなんとかできればそれでいいと思っており、口裏を合わせて欲しかっただけだが、神父は一瞬、言葉に詰まった。ライは藪から蛇を出した気分になった。思わず嫌な顔をすると、相手もそれで失敗に気づいたらしく、はぁと嘆息した。&lt;br /&gt;
「……修行が足りないようですな」&lt;br /&gt;
「……僕も軽率過ぎたよ。とりあえずここなんとかして上に行こうか」&lt;br /&gt;
　乗客が口を挟んだ。「俺たちを見捨てるのか？」&lt;br /&gt;
「見捨てる？」ライは問い返した。「守るために、上に行くんだ。今のところここには何の危険もない」&lt;br /&gt;
「壁を破って敵が来たらどうする」&lt;br /&gt;
　そんなの、最下層に穴を開けられたら船が沈むに決まっている、と思った。護衛達はあまりにも多くの海賊を海に投げ落としたな、とも。或いは彼らは実際に外側に張り付いているのかも知れない。悪い想像ならいくらでもできる。できないのは証明と対処だけだ。&lt;br /&gt;
「馬鹿な」ライは吐き捨てた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　結局、神父が何か上手いことを言って煙に巻き、ライと神父と密航者の三人は、追い出されるように外へ出た。扉の向こうでは、再びバリケードを積み上げる音がしている。&lt;br /&gt;
　少女は俯いたままがたがた震えており、それは恐怖のためだけではないように思えた。「ずっとあそこにいたのですか？」と神父が尋ねた。少女は頷いた。&lt;br /&gt;
　ライは肩を竦めた。「生憎、ここには温かいスープもパンもない」&lt;br /&gt;
　少女はびくと震え、神父にしがみつき、こちらを見上げてきた。神父が、批難がましい声でこちらを呼んだ。「随分と機嫌が悪いようですな」&lt;br /&gt;
「機嫌？」ライは問い返し、自分の感情を測ってみたが、確かに機嫌はよくなかった。気が立っている。ついでに、いつの間にか輪郭が乱れていた人の姿を、意識して結び直す。少しはまともに見えるはずだ。「悪いよ。今の状況を喜ぶようなマゾヒストじゃないから」&lt;br /&gt;
「誰もそうではないでしょうな」&lt;br /&gt;
「わかった」ライは意味のない嘆息で反省を示した。少女に「怖がらせてごめん」と謝った。上に戻ると告げると、少女に呼び止められた。弱々しい声だったが、辛うじて聞き取ることはできた。&lt;br /&gt;
「……父さんは、無事？」&lt;br /&gt;
「誰のこと？」ライは問い返した。神父が、父親に用があって密航したのかと問うた。少女は躊躇ったが、頷いた。「父さんは船員よ。港に寄った時、船は一週間も停泊してたのに、父さんは一度も帰ってこなかった。会いに来ても追い返されたから、忍び込んだの」&lt;br /&gt;
　彼女の口調には下町の響きがあり、端々には鋭さが感じられた。普段であれば気の強い性格なのだろう。喋っている内に立ち直ってきたのか、少女は神父の手を取って立ち上がった。&lt;br /&gt;
「それで密航とは度胸があるね。船が動かない内には帰れなかったの？」&lt;br /&gt;
「……あの日が出港だなんて知らなかったのよ」少女はむすっとして答えた。ライはそれは嘘だろうと思った。彼女はさりげなく目を逸らしたし、船員の娘が船内の様子で出港に気づかないとは思えなかった。&lt;br /&gt;
「父君とはどなたのことです？」神父が尋ねた。少女は答えた。「トビーっていうのよ。巨人のトビアス。あたしとおなじ青い目をしているの」&lt;br /&gt;
　ライと神父は視線を見合わせた。二人とも、彼とは何度か、おなじ賭博の卓についたことがあった。まだ若く、豪快で、傭兵達にも負けない立派な体躯と、潮に喉をやられたがらがらした声を持っていた。ライが先に目を逸らした。彼が上で殺されたことを、二人のうち、ライだけが知っていた。&lt;br /&gt;
　そういえば彼は生前、せっかく故郷に寄ったのに家へ帰れなかったというようなことを言っていた。ライは彼は多忙のあまり帰る暇もなかったのかと思ったが、違うのだろうか。&lt;br /&gt;
「……トビーか。彼には金貨を二枚も負けた」ライは声を絞り出した。「まだ海賊が降りてきてないってことは、護衛がまだ戦ってるんだと思う。探すだけ探してくるよ」&lt;br /&gt;
「あたしも行く！」&lt;br /&gt;
「駄目ですよ、お嬢さん」神父が彼女の腕を押さえた。「上は危険です」&lt;br /&gt;
「その半分でも僕の心配をしてくれてもいいと思うけど」ライはぼやいた。神父は呆れた顔をして、従順な子羊に神のご加護を云々と祝福をくれた。ライは大凡の悪霊の類がするように、その場から退散することにした。&lt;br /&gt;
　踵を返すと、目の前に、潰れた顔があった。それはライを無視して神父と少女に飛びかかった。剣を抜くには間に合わない。半ば反射的に襲撃者の背に手を伸ばし、活力の源を奪い去る。魂だが生気だが、そんなようなものを失った死体がどさりと倒れた。&lt;br /&gt;
「……ひ」少女が喉の奥で声を上げた。&lt;br /&gt;
　倒れているのは、先程、船室の窓を目張りしている時に死んだ乗客だった。あの場に横たえられて放置されていたのがアンデッドとして立ち上がったに違いない。神父の祈りで防げなかったのが残念だが、東西では宗教観念や魂の概念が異なるようなので仕方がない。&lt;br /&gt;
「死んだ……？」神父は悼ましさと疑わしさが入り交じった視線で死体を見下ろした。ライは「貸し二ね」と言って甲板へ向かった。&lt;br /&gt;
　そして二人の姿が見えなくなってから、あーと声を上げて頭を抱えた。死人の魂など食うものではない。吐気がする。東西問わず二度とやるまい。いくら手応えが気持ち悪かろうが剣でやった方がマシだ。&lt;br /&gt;
　ふらふらと甲板に出る。戦いの物音は絶えていなかった。ライは安堵して知った顔に話しかけた。「生きてる？」&lt;br /&gt;
「なんとかな」三十歳過ぎの、黒髪の傭兵が呻いた。彼は左肩に裂傷を負っており、その周囲はドス黒く変色していた。他の傭兵達も似たような有様か、死んで転がっているか、無傷でも酷く疲労しているかだった。&lt;br /&gt;
「お前こそ死んだような顔してやがる」&lt;br /&gt;
「食あたり。おじさんも注意しなよ」ライは敢えて笑って答えた。&lt;br /&gt;
「飯か。それも悪くないが」傭兵は苦笑いし、ここを守るのが仕事だと答えた。船室に一人の脱落者の姿もないことは不思議だった。前線を見れば状況が芳しいようには見えないが、士気は高い。&lt;br /&gt;
「金貨三枚で人生を棒に振る気？」&lt;br /&gt;
「そう思うなら返せよ」傭兵は笑って鎚戈を構え直した。その先端は不安定に上下した。&lt;br /&gt;
「次は勝てばいい。手加減はしないけど」ライは苦笑を返した。死ぬつもりの人間と話すと神経が擦り減る。自分はこのような場所にいるような人種ではないはずだ。見てわかるような死地とはそれなりに無縁に過ごしてきた。&lt;br /&gt;
「そうだな、次は勝とう」&lt;br /&gt;
　ライは答えるべきか迷った。&lt;br /&gt;
　不意に、誰かに呼ばれたような気がした。視線を巡らせたが、戦列の先には篝火と霧、襲い来る海賊たちしか見えない。その海賊たちの攻勢が幾らか収まり、反撃に出ようとした護衛たちを、指揮官の声が押さえ込んだ。命令を下しているのはバラントレイだった。彼は集団を指揮することに随分と慣れているように見えた。嘗てはどこかの正規軍にいたか、或いは自分の傭兵団を持っていたのだろう。&lt;br /&gt;
　ライは霧の先を見通そうとしたが、失敗した。自然のものでないためか、視界が効かない。&lt;br /&gt;
　やがて、霧の中から海賊たちが飛び出してきた。ライは人間よりは幾らか先に彼らの姿を見て取った。或いは、目のよい者は同時に気づいたかも知れない。どちらにせよ、一瞬は目を疑ったので、大差はなかった。&lt;br /&gt;
　海賊たちは、中央の者を先頭にに、両翼に数人を並べ、見事な突撃陣形で突っ込んできた。</description> 
      <link>http://terraromarog.blog.shinobi.jp/%E2%97%8B%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%87%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%A1%E3%83%B3/%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%80%808%EF%BC%8F%E3%83%A9%E3%82%A4%EF%BC%88%E5%B0%8F%E6%9E%97%E6%82%A0%E8%BC%9D%EF%BC%89</link> 
    </item>
    <item>
      <title>羽衣の剣　9／イートン（千鳥）</title>
      <description>ＰＣ：　　デコ、ヒュー、イートン&lt;br /&gt;
ＮＰＣ：　&lt;br /&gt;
場所：　　小街フェンリル→ポッケ海（90-203付近の湖）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
――――――――――――――――――――――――&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「護衛の代わりが見つかったらしいぞ！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　積荷の搬入出で忙しい、商船『トコフェロール号』に向かって、一人の男が大声を&lt;br /&gt;
上げた。&lt;br /&gt;
　&lt;br /&gt;
「とは言え、風変わりな格好をした二人連れで、一人はまだ若造らしいがな・・・」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　それでも、こんな田舎に腕の立つものなど滅多に寄り付かない。&lt;br /&gt;
　陸に不慣れな自分たちよりはマシだろう。&lt;br /&gt;
　集まってきてそんな会話を交わす海の男たちの中に、一人毛色の違う男が割り込ん&lt;br /&gt;
で問いかけた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「明日には出発できますかね？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　厚手のコートを着込んでいても、その身体は他の船員に比べ、明らかに貧弱だ。&lt;br /&gt;
　吐いた息で曇った眼鏡を億劫そうに外して、男は紫の瞳を細めた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「本当は今日にでも出発したい所だが・・・、おい、荷馬車に樽を積んどけ！」&lt;br /&gt;
「はいよ、キャプテン」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　一人の男の号令に従って、皆その場から散っていく。&lt;br /&gt;
　残ったのはキャプテンと呼ばれた男と、眼鏡の優男の二人だけだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ホントについていくのかい？センセイ」&lt;br /&gt;
「もちろんですよ。その為にこんなに寒い所まで船に乗って来たんですから！エルゴ&lt;br /&gt;
さんは行かないんです か？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　エルゴと呼ばれた船長は、『センセイ』の言葉に軽く笑った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「俺は船を離れるわけには行かないんでね。まぁ、腕の立つのは何人か行かせる」&lt;br /&gt;
「噂では、近づくくらいなら危険はないとの話でしたが・・・」&lt;br /&gt;
「水の精霊が暴走してるんだっけか？だからこそ、あそこの水が高く売れるわけだ&lt;br /&gt;
が」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　ポッケ海の水を一体何に使うのだろう・・・？&lt;br /&gt;
　男は不思議に思って、エルゴに何度か尋ねたことがあるが、企業秘密だと言われ結&lt;br /&gt;
局知ることは出来てい ない。&lt;br /&gt;
　もっとも、彼の目的は、水の価値を知ることなどでは無かった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「調査隊も入ってないんだ。メイルーンのヴェルン遺跡のように、アンタがふっ飛ば&lt;br /&gt;
さないといいけどな」&lt;br /&gt;
「なっ、何でそれを！？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　他人から過去の汚点を持ち出され驚くが、すぐに思い当たり、彼はため息と共に肩&lt;br /&gt;
を落とす。&lt;br /&gt;
　エルゴが笑ってその肩を叩いた。&lt;br /&gt;
　親愛の行為なのだろうが、かなり痛い。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「俺はアンタの本の読者なんだから、知ってて当然だろ？イートン先生」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++&lt;br /&gt;
+++++++&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　旅の終わりはあまりにも突然だった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　ジュデッカ監獄から解放されたイートンを待っていたのは、紙切れ一枚の別れの言&lt;br /&gt;
葉。&lt;br /&gt;
　&lt;br /&gt;
　置いていかれたのだと、理解することが出来ず、必死でルナシーやオッドアイの少&lt;br /&gt;
年魔族の情報を集めた が、彼らにたどり着くことは出来なかった。&lt;br /&gt;
　何がいけなかったのか。&lt;br /&gt;
　非凡な彼らの中で、ただの人間であるイートンが役立たずであることなど最初から&lt;br /&gt;
分かっていたはずだ。&lt;br /&gt;
　一年以上共に旅をした中で築いた信頼関係は幻だったのだろうか。&lt;br /&gt;
　　&lt;br /&gt;
　行き場の無い感情をぶつけるように執筆した『ルナシー』が、出版社の目に留ま&lt;br /&gt;
り、僅かとはいえ人に読まれるようになると、また新たな情報が入るようになった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　この『堕ちた神々の社』と呼ばれる遺跡も、作中に出てくるナスビの守護していた&lt;br /&gt;
ヴェルン遺跡と状況が似ているという事から、イートンの耳に入ってきたのだった。&lt;br /&gt;
　最も、この二つの遺跡は距離にして大きく離れているため、同じ文明のものである&lt;br /&gt;
可能性はかなり低い。&lt;br /&gt;
　ついでに言えば、ヴェルン湖は、発掘済みとはいえ、怪物退治する際に湖ごと消し&lt;br /&gt;
飛ばした為、現在では存在しない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（僕は、今でもあきらめてませんよ。八重さん）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　八重と初めて会ったとき、イートンは彼を主人公にして物語を書くと宣言した。&lt;br /&gt;
　『ルナシー』の物語は未だ完結していない。&lt;br /&gt;
　八重とヒエログリフの決着を知るまでは終らせることが出来ないからだ。&lt;br /&gt;
　彼らは今も『ヒエログリフ』を追っているのだろう。&lt;br /&gt;
　つまり、イートンも『ヒエログリフ』を追えば、彼らに再会することが出来るかも&lt;br /&gt;
しれない。&lt;br /&gt;
　単純な、しかし切実な願いの元、イートンはこの商船に乗り、ポッケ海へと足を踏&lt;br /&gt;
み入れることにした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　分かれた物語が再び一つになることを祈って、今は新たな物語を紡ぎ続けるより他&lt;br /&gt;
はないのだ。&lt;br /&gt;
　　　&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
========================================================</description> 
      <link>http://terraromarog.blog.shinobi.jp/%E2%97%8B%E7%BE%BD%E8%A1%A3%E3%81%AE%E5%89%A3/%E7%BE%BD%E8%A1%A3%E3%81%AE%E5%89%A3%E3%80%809%EF%BC%8F%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B3%EF%BC%88%E5%8D%83%E9%B3%A5%EF%BC%89</link> 
    </item>
    <item>
      <title>鳴らない三味線　3／ストック（さるぞう）</title>
      <description>PL　　　さるぞう&lt;br /&gt;
PC　　　ストック&lt;br /&gt;
NPC　　　（カミヤ　オオタニ　フルイケ　メメコ　婆ちゃん）&lt;br /&gt;
場所　　今じゃない時と場所&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
----------------------------------------------------------------&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「こ、ここは？」&lt;br /&gt;
遠退いた意識の先、周りを見渡すが目の前にあるのは何も無い無限に広がる空間。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
数回頭を左右に振り、現状を理解しようとする。&lt;br /&gt;
おそらくは夢なのだと、ストックには思えた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ほんの数分・・・いや数秒前に存在した祖母の部屋は、自分が知る場所ではなくなっている。&lt;br /&gt;
闇も無い、そしておそらく光すらない、自分だけの意識の世界。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「～～♪　～～ーー♪　　ー～♪」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そんな中、ふと耳に流れてくるものがある。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「音楽？！」&lt;br /&gt;
ストックは耳を澄ます。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「～ー～♪　～～ー～～ー♪　　ー～ー♪」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
目を閉じ、聞こえる音に集中する。&lt;br /&gt;
ほんの数時間前・・・いや&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
いつから聞こえなくなっていたのだろう・・・・・・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
失われていた音色は、千歳（ちとせ）にも百歳（ももとせ）にも永く・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
乾き切った心に響くそれは段々と音量を増す。&lt;br /&gt;
心を潤し、染み渡るそれに合わせ、周囲が景色を取り戻す。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そして、取り戻した景色と何も無い部屋に残る三味線が一棹（さお）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「これ・・・ばぁちゃんの・・・」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
祖母の愛用する銘細棹「百烏（ももがらす）」。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ストックは導かれるように百烏を手にする。&lt;br /&gt;
そして、壱の糸、弐の糸、参の糸と、順番に触れる。&lt;br /&gt;
そして流れ続ける音色に合わせる様に弦を爪弾く・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
湧きいずる音色。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
もの凄く心地が良い・・・奏でる音色と喜びが体中を駆け巡る。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
同時に脳裏に浮かび上がるのはバンドのメンバーとの演奏の日々・・・&lt;br /&gt;
弦が震える・・・憑かれた様に撥を振るう・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
カミヤと今の学校で初めて出会った時の事。&lt;br /&gt;
オオタニ君を騙すように誘ったライブ。&lt;br /&gt;
住み着いた猫のようにバンドに居ついたメメコ。&lt;br /&gt;
底抜けの明るさでメンバー全部を引っ張るフルイケ君。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
すぐ隣で演奏してくれてるかのような錯覚に&lt;br /&gt;
ストックのテンションは上がり続け、思わず薄く笑みを浮かべる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
カミヤの爽やかな笑顔と地歌三味線の音色が・・・&lt;br /&gt;
オオタニ君の迫力のある陣太鼓の撥捌きが・・・　&lt;br /&gt;
メメコのクールで滑る様なキーボードの鍵盤操作が・・・&lt;br /&gt;
フルイケ君の骸骨マイクから響くシャウトが・・・　&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
忘れかけていた全てが脳裏に蘇る・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ずっと忘れていた演奏を取り戻す。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（そうか、僕は忘れちゃっていたんだ・・・）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「はぁ、はぁ、はぁ」&lt;br /&gt;
永遠にも思えた演奏を終え、肩で息をするストック。&lt;br /&gt;
心地良い疲労感と共に座り込む。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「これが・・・音楽・・・」&lt;br /&gt;
失った何かを取り戻しポツリと口に出た言葉・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そしてもう一度「百烏」を構え撥を下ろす。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
今度はゆっくり・・・音を噛み締めるように。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
自ら奏でた音色が包むかのように、ストックを現実への覚醒へと誘う。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（みんなに逢いたいな・・・・・・）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
醒め始めた意識の中にメンバーの顔が脳裏に浮かぶ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（もう、忘れちゃう位逢ってないのに・・・）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
自然と涙が溢れるのを感じながらストックは目覚めた・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞＜＞&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ゆっくりと、ゆっくりと目が覚める。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（まぶしい・・・）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
自分が泣いていた事に気付き目を擦る。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（懐かしかった・・・・・・な・・・）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
木に括り付けたハンモックから荷物を下ろすと&lt;br /&gt;
ケースに入った「百烏」を見やる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（夢だったけど・・・・・・）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
自らが纏った希薄な存在感を自覚し、ストックは苦笑する。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
今の彼自身は、この世界において一言で言えば”無害”な存在と言えよう。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
彼に必要なものは”創造”する事だけ。&lt;br /&gt;
その唯一の手段が音楽。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
この世界で”創造”を続けなければ消えてしまう希薄な存在が彼”ストック・ミュー” &lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そして彼は今日も三味線を爪弾く。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
いつか戻れる元の世界があること事を信じて・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
----------------------------------------------------------------</description> 
      <link>http://terraromarog.blog.shinobi.jp/%E3%82%BD%E3%83%AD/%E9%B3%B4%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E4%B8%89%E5%91%B3%E7%B7%9A%E3%80%803%EF%BC%8F%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%83%E3%82%AF%EF%BC%88%E3%81%95%E3%82%8B%E3%81%9E%E3%81%86%EF%BC%89</link> 
    </item>
    <item>
      <title>Get up! 14／フェイ（ひろ）</title>
      <description>場所　：会議室　暗闇&lt;br /&gt;
ＰＣ　：フェイ　コズン&lt;br /&gt;
ＮＰＣ：レベッカ　クラッド　男　亜神&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　翌日、昼になる前に呼び出された会議室。&lt;br /&gt;
　フェイの説明と、適時コズンとレベッカから示される資料、すべてを聞き終え&lt;br /&gt;
たクラッドは唸るように嘆息した。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　まず召喚術師に焦点を当てることにした三人はあらかじめ集めていた事件の資&lt;br /&gt;
料の中から、現地に生息していないモンスターがかかわった事&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
件や、フェイの過去のように眷属などが襲われた事件の中からも同様にモンス&lt;br /&gt;
ターを目印に選別した。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「なるほど、一見同じ多種族廃絶主義者の過激派の事件に巧くまぎれているが、&lt;br /&gt;
こうしてみると別の事件だな」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　前回のような拉致事件と例えば眷属の村襲撃事件などは一定の範囲内で重なる&lt;br /&gt;
地域に起きていた。&lt;br /&gt;
　今までは其の範囲がそれなりの広さにわたっていたため気に止められることは&lt;br /&gt;
なかったが、こうして一見別物の事件が巧く重なるところを見&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ればいやおうなく目に付く要素だった。&lt;br /&gt;
　&lt;br /&gt;
「ふむ、で、これがその召喚術師絡みとして、どうする気だ？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「エルガー達が出てるのは、またどこかが襲われるという情報が入ったからです&lt;br /&gt;
ね？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　フェイは義父の質問に答得る前に、確認しておくことを聞いた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ん？　ああ、今回は武器の密輸のほうを追っていた城のほうからの情報でな」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　城とはそのまま王城を指し、それはエドランスの行政機関をあらわしている。&lt;br /&gt;
　一度戻ったエルガーが、手助けの必要がないとわかるとすぐさま引き返したの&lt;br /&gt;
も、この襲撃の情報が国というかなり精度の高いところから得&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
られたものだったため、用がないのにゆっくりしていられる時間はないからだった。&lt;br /&gt;
　逆に言えば、フェイの手助けをすることは、エルガーをはじめ仲間たちにとっ&lt;br /&gt;
ては大事なことの一つだったのだが、クラッドは養い子に其の&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
説明をあえてせずに、聞かれたことに答えるにとどめた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「だったら条件はそろってるんじゃない？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　レベッカがコズンの肩の上からフェイを見上げる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「なにかするつもりかね？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「はい、この地図を見てください――」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　フェイは先の資料の中から地図を抜き出して広げると、三人で話し合ってまと&lt;br /&gt;
めた考えを説明した。&lt;br /&gt;
　抽出した事件が一定範囲でくくれるのは前述のとおりだが、この謎の召喚術師&lt;br /&gt;
の事件には細々とした拉致事件と過激派たちの事件にまぎれる&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
大規模な襲撃事件――いやひょっとすると過激派となんらかの協力関係にあるよう&lt;br /&gt;
で、たんなる偽装とは思えないほど同調して起きている。―&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ーの特徴から考えると、エルガーたちの仕事が過激派がらみなら、宿場の拉致が&lt;br /&gt;
失敗してる分、ここで事を起こす可能性は高い。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「しかし過激派の事件と必ず同期してるわけではないし、大まかには絞れても襲&lt;br /&gt;
撃場所が特定できるわけでもない」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「はい、そこでエルガー達だけじゃなく、他のPTにも襲撃されそうなところを警&lt;br /&gt;
戒してもらいます」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　国のつかんだ過激派の情報はかなり精度が高いが、当然フェイ達の追う召喚術&lt;br /&gt;
師、またはその組織の情報ではない、あくまで過激派に同期す&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
るようにして事件を起こしている可能性が高い、というだけである。&lt;br /&gt;
　そこで三人はまず場所を限定するためにエルガー達の警戒している地区以外の&lt;br /&gt;
可能性のあるところをすべて抑え、一つ隙を作りそこにさそう&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
という、ある意味常道中の常道でいくことにした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「過去の案件から考えるに過激派と同じどころを襲撃はしないが、必ず同一事件&lt;br /&gt;
とおもえる程度の範囲内に限定できる、が――」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　アカデミーには情報分析の研究をする教室もあり、範囲を限定し効率的な配置&lt;br /&gt;
をするのは可能だが、相手が行動を起こすかどうかまでは断定&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
しようもない。&lt;br /&gt;
　そもそも、なんらかの手段で向こうも情報を足つめてから行動を起こしてるの&lt;br /&gt;
は当たり前で、そうなれば配置関係から、自分たちへの罠の気&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
配を察知して、予定を変えることもありうるのだ。&lt;br /&gt;
　私的の養い親は公的の教師として問題点を指摘した。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「はい、ですから私がえさになります」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　先の宿場でのモンスターによる事件に偽装していた拉致事件、アニスの証言&lt;br /&gt;
と、無目的だったりはした金欲しさの誘拐に手を出すとは思えない熟練の術師の&lt;br /&gt;
存在、層考えると、普通の人間は偽装か数を稼いでるだけなのか、とにかく本当&lt;br /&gt;
の目的は「力を持つ血」であろうと思われることから、それの確保に一度失敗し&lt;br /&gt;
てる今、この謎の敵はそれほど待てないのではないかと推測できた。&lt;br /&gt;
　もしそこに、完全体ではないとはいえ、あのアニスより強い血をもつ獲物がい&lt;br /&gt;
たら……。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「さらに、それが前回邪魔をしたやつなら食いつく可能性は高いと思われます」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「……その召喚師がまたあらわれると？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「いえ、あの者は雇われの様なことを言っていたので、別のものが来るかもしれ&lt;br /&gt;
ませんしそもそも人とも限りませんが、同じ一味のものが来ると思われます」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　クラッドはまたフェイの割る癖が出たのかと注意しかけたが、其の気配を察し&lt;br /&gt;
たのかどうか、それまで珍しくおとなしかったコズンが、両手のこぶしを打ち合&lt;br /&gt;
わせながら、独り言のように言った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「今度は足手まといにはならねぇ！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　言いかけた言葉を呑みこみ、クラッドはコズンの肩の辺りに目を見やる。&lt;br /&gt;
　そこでは妖精が、その普段の様子を知るものには意外な大人びた笑顔でこちら&lt;br /&gt;
を見返して頷いた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「餌は、私たち三人です」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
▽　▽　▽　▽　▽　▽　▽　▽　▽　▽　▽　▽　▽　▽　▽　▽　▽&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「日にちが決まったようだ」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　獣の気配が充満する暗闇の中に、落ち着いた男の声がする。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「――そうか」&lt;br /&gt;
　&lt;br /&gt;
　人語では在るが、まるで獣の唸り声を無理やり人語にしたような声が答える。&lt;br /&gt;
　その声は闇の中の獣の気配に囲まれた皿に向こうからだったが、不思議とよく&lt;br /&gt;
届いた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「自らを至上と信ずる狂信者度もが、愚かにも神々に連なるモノたちをまた襲うか」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「……あんたの仲間じゃないのか？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　男はここ最近の付き合いで、そもそもこの国の生まれでもないため、この地に&lt;br /&gt;
住まう異形とのモノ達については良くわかってはいなかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「同位の神格を持つものならともかく、導き手を失った眷族どもが仲間なものかよ」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　独特の唸り声が感情の読めないまま男の耳に届く。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「導き手……あんたはその導くべき眷族を失ってるわけか」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「それでもあがく我を愚かと思うか？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「いや……ここにいる俺に嗤う資格はないだろう」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうだ、我らは同じ定めを越えんと抗うものだ」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　声の主が始めて勘定をにじませる。&lt;br /&gt;
　刺激されたように闇の中の獣たちがざわめくように唸り始める。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「……俺が行くか？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「いや、愚か者との約定でな、わが子らが行く」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　神聖なる地の盟約に導くものたちではなく、その力によって従える獣のわが子&lt;br /&gt;
たち。&lt;br /&gt;
　むしろ血を求める今の自分は失った民よりも、この魔獣どものほうが近しいか&lt;br /&gt;
もしれない。&lt;br /&gt;
　神ごとき力を持ちながら神ならざるもの――亜神とエドランスに伝えられるその&lt;br /&gt;
存在は命令を待つ獣たちを見ながら層思った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「お前は獲物を選んで先導してくれれば良い、情報は愚かもたちがくれるだろう」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「承知した」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　男は再び闇に溶け込み姿をした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　後は、闇の中に獣の咆哮だけが残されていた&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
-----------------------------------------------------------------</description> 
      <link>http://terraromarog.blog.shinobi.jp/%E2%97%8Bget%20up--/get%20up-%2014%EF%BC%8F%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%A4%EF%BC%88%E3%81%B2%E3%82%8D%EF%BC%89</link> 
    </item>
    <item>
      <title>モザットワージュ - 5／マリエル（夏琉）</title>
      <description>PC：マリエル、アウフタクト&lt;br /&gt;
場所：魔術学院（図書館）&lt;br /&gt;
------------------------------------------&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「わかりました。でも、レポートのお手伝いは必要ありません」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　マリエルは、青年の申し出に固い口調で答えた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　ベニントン教授の名前なら聞き覚えがあった。講義を受講したことはまだないが、文献&lt;br /&gt;
を参照しているときに、見かけた名前だ。&lt;br /&gt;
　資料を代わりに借りるというのは抵抗を感じたが、青年の申し出を断れるほどの強い理&lt;br /&gt;
由をマリエルは持っていなかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　青年の持っている本の中にはマリエルが必要としているものも混ざっていたが、まだレ&lt;br /&gt;
ポートの期日までは時間がある。とやかく言うよりは、あとで代替策を考えたほうが面倒&lt;br /&gt;
が少ないだろう。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ありがとうございます。助かります」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　青年が礼を述べ、それにマリエルは少しほっとする。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　自分が困っているときに助けを求めた場合ならともかく、自分の力でなんとかできる課&lt;br /&gt;
題に対して、助力を申し出られたことに戸惑いがあったのだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「私も、借りにいくところだったので、一緒に持っていきますよ」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「いえ、カウンターまで持っていきます。手続きのときは、お願いしますが」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　マリエルの抱えている本の量をちらっとみて、青年が言う。&lt;br /&gt;
　資料を探しているときに見かけた青年の様子からは、よい印象を受けなかったのだが、&lt;br /&gt;
基本的には親切な人なのかもしれない、とマリエルは思う。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　マリエルが先が貸出カウンターに向かって歩きだすと、青年が後ろについてくる形になる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　青年の話を信じるならば、彼はここの卒業生か何かで、現在は部外者ということになる。&lt;br /&gt;
だとしたら、内部の人間のマリエルが案内するような形になるのは当然なのかもしれない。&lt;br /&gt;
しかし、年長の人間の前を歩くという慣れない立ち位置に、背中がむずむずするような違和感を覚えた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「え…」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　入口に近づいたところで、マリエルは思わず足をとめた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　いつもなら、本棚の向こうに貸出カウンターが見えてくる場所なのだが、&lt;br /&gt;
　本来ならば、カウンターがあると思っていた場所には、見慣れない本棚が並んでいた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　場所を勘違いしたのだろうか。&lt;br /&gt;
　しかし、概論や解説書が納められているこの図書館は、以前から何回も利用している。&lt;br /&gt;
貸出カウンターへの行き方も、ほとんど考えずに移動できるくらいだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「すみません…本を借りるのはこっちだと思っていたんですけど、勘違いしていたみたい&lt;br /&gt;
です。さっきの場所の反対側に行ってみればいいでしょうか？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　マリエルは振り返って青年に話しかけた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
------------------------------------------</description> 
      <link>http://terraromarog.blog.shinobi.jp/%E2%97%8B%E3%83%A2%E3%82%B6%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A5/%E3%83%A2%E3%82%B6%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A5%20-%205%EF%BC%8F%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%AB%EF%BC%88%E5%A4%8F%E7%90%89%EF%BC%89</link> 
    </item>
    <item>
      <title>カットスロート・デッドメン　７／タオ（えんや）</title>
      <description>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・&lt;br /&gt;
ＰＣ：タオ、ライ&lt;br /&gt;
ＮＰＣ：ソム、バラントレイ、バンドレア、レイブン、神父、水兵、海賊等々&lt;br /&gt;
場所：シカラグァ・サランガ氏族領近海の船上&lt;br /&gt;
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオはソムの元に向かいながら、もう一度ライとの会話を振り返っていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（…空？）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオは空を見上げる。空一面も霧で覆われ、星空はおろか月すらも見えない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（…船長は既に死んでいたか…とすれば…）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオはふと舷側を覗き込んだ。&lt;br /&gt;
そこにはまだカッターボートが括りつけられていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（…元より計画の内であれば、小船で大海の中を逃げ出す危険は冒さぬか…）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオは襲い掛かる海賊を殴り倒しながら先を急ぐ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（ならば、彼らはどこに？）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオは足を止めた。その視線の先には、甲板の上に突き出すような海賊船のバウスプリットと美女の胸像が見えた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　＊　　　＊　　　＊&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
船内へと続く階段の入り口付近では生き残っている傭兵達が肩を並べて防衛ラインを築いていた。タオはその中に赤い髪を見つけて、そこに向かった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「無事ですか？」&lt;br /&gt;
「まだ無事だよ、こんちきしょう！お前どこ行ってたよ！？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ソムが汗をたらしながら怒鳴る。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「申し訳ない。」&lt;br /&gt;
「そう思うんなら、あとはお前がやれ！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオは頷くと、防衛ラインの前に歩み出、一人の万鬼の腕を捻った。&lt;br /&gt;
その万鬼は捻られるまま隣の万鬼にぶつかり三人ほど巻き込み体勢を崩す。&lt;br /&gt;
タオはその横に踏み込んで、そのまま背を万鬼に預け、床を力強く踏み込んだ。&lt;br /&gt;
万鬼が数体まとめて吹き飛んだ。タオはというと、万鬼が吹き飛ぶと同時に反対側へと踏み込み、そちら側にいた万鬼も数体まとめて弾き飛ばす。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「…お前のデタラメ見てると、真面目に生きてるのが馬鹿みたく思える…。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオは押し寄せる万鬼を片付けながら尋ねた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「状況は？」&lt;br /&gt;
「バラントレイのおっちゃんが全員呼び集めて防衛線築いたとこ。&lt;br /&gt;
　あのおっちゃん、元軍人じゃねーかな？」&lt;br /&gt;
「なるほど。で、そのバラントレイ殿は？」&lt;br /&gt;
「当の本人は何人か連れて、敵の総大将に切り込んでるよ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ソムの指し示すほうを見ると、万鬼達の中央で数名の傭兵が戦っていた。&lt;br /&gt;
いや、円陣を組むように防衛している。その円の中央で、バラントレイが骸骨の描かれた船長帽を被った万鬼と対峙していた。その万鬼は片手に黒い剣を握っていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&quot;黒剣の&quot;レイブンまでアンデッドになってたとはな。」&lt;br /&gt;
「一対一で臨むのは、彼の矜持ですかね。」&lt;br /&gt;
「それが&quot;決闘者&quot;のゆえんさ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
バラントレイのレイピアがうねった。&lt;br /&gt;
変幻自在の軌道を持つ高速の突きが放たれる。&lt;br /&gt;
レイブンはそれを黒剣で払いながら体を捌き左手を伸ばす。&lt;br /&gt;
バラントレイは素早く体を引き、レイブンの左手をかわした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「あちらのほうが楽しそうですね。」&lt;br /&gt;
「そう思えるお前の頭ん中のほうが愉快だよ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
その時、遠くで誰かが一際高い悲鳴を上げた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「船倉！？」&lt;br /&gt;
「女性の声ですね。」&lt;br /&gt;
「なんで女がいるんだよ。」&lt;br /&gt;
「さぁ」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ソムは舌打ちした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「しゃーねぇ。ここは任せたぜ。」&lt;br /&gt;
「用心を。」&lt;br /&gt;
「何を今さら。」&lt;br /&gt;
「今以上の用心を。」&lt;br /&gt;
「…何か気になることがあんのか？」&lt;br /&gt;
「この船の船長は死んでいました。それも昨日今日ではなく。&lt;br /&gt;
　最初から、計画の内かも知れません。」&lt;br /&gt;
「…どういうことだ？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオが答えようとしたとき、ライが万鬼の隙間を縫って駆けつけてきた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「悲鳴は？」&lt;br /&gt;
「中だ！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ライはそのまま階段を駆け下りた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ちょうどいい。中はヤツに任せよう。」&lt;br /&gt;
「そうですね。」&lt;br /&gt;
「…で、船長が死んでるっていうのは？」&lt;br /&gt;
「腐り果てていました。この船もまた幽霊船だったということです。&lt;br /&gt;
　…ですが、幽霊船が積荷を積んだり客を取ったり護衛を雇うことはできない。&lt;br /&gt;
　我らの雇い主は確かに生きていたし、大勢の水夫も然りです。&lt;br /&gt;
　死せる船長を隠し船を動かすには生ける協力者が必要です。&lt;br /&gt;
　万鬼もまた、徒党を組み海賊を働くということは考えにくい。&lt;br /&gt;
　やはり生ける者の作為を感じます。&lt;br /&gt;
　死人を利用する何者かがいて、その操る死人の船が洋上で出くわす。&lt;br /&gt;
　無いとは申しませぬが、何者かは同じと考えるとするなら。&lt;br /&gt;
　協力者は今どこにいるのか？&lt;br /&gt;
　下手に船に留まれば、流れ弾に当たるかも知れぬし、&lt;br /&gt;
　万鬼に襲われない不自然さに気付かれる虞れもある。&lt;br /&gt;
　カットボートはどれ一つ欠けてはいなかった。&lt;br /&gt;
　ならば…」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオは万鬼を片付けながら、自らの思考を整理するように言葉を紡ぐ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「…相手の船か！」&lt;br /&gt;
「あるいは。襲撃されてからは船上は混乱していて&lt;br /&gt;
　仮に誰かがあちらの船に乗り込もうとしても気付きますまい。」&lt;br /&gt;
「ふん、死人より生きてる奴のほうがおぞましいってか。&lt;br /&gt;
　…だが、目的は？」&lt;br /&gt;
「我々か、客か、荷物かでしょう。」&lt;br /&gt;
「それでも、こんな馬鹿騒ぎ起こす必要があるか？」&lt;br /&gt;
「それが疑問の残るところ。&lt;br /&gt;
　どのみちこれ以上推論を重ねたところで無意味でしょう。&lt;br /&gt;
　なんだって起こり得る。私の考えすべて誤っているやもしれません。&lt;br /&gt;
　…ですから、ただ、用心を。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
その時、傭兵の一人が叫んだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「やった！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
バラントレイのレイピアが、レイブンの心臓を貫いていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「いえ。誘われました。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
レイブンは刺し貫かれたままそのレイピアを左手で掴みとると、剣を握った右手を振りかぶった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
バラントレイは剣を離すことに一瞬躊躇した。&lt;br /&gt;
その隙を待つ筈もなく、レイブンは右手を振り下ろした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
銃声が響き、レイブンの右手から黒剣が弾き飛ばされた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「誰だ？」&lt;br /&gt;
「バンドレア殿ですね。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
マストの上の見張り台からバンドレアがマスケット銃を突き出していた。&lt;br /&gt;
目の前に迫った死を逃れたバラントレイは、レイピアから手を離しレイブンから距離を取る。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「いつの間にあそこに行ったんだ。」&lt;br /&gt;
「わりと最初のほうに登って行ったのを見かけましたが。」&lt;br /&gt;
「今の今まで、何もせずに隠れていたのかよ！」&lt;br /&gt;
「まぁ、ただの銃では万鬼は倒せませんし、弾込めに時間も割けない状況、&lt;br /&gt;
　一人で持ち歩く銃の数などたかが知れてるのですから仕方ないでしょう。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
バンドレアの存在に気付いた万鬼達がマストをよじ登り始める。バンドレアは上から短銃を撃っては投げ捨て応戦するが万鬼達は気にせず登っていく。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「一度撃てば、ああなるわけですし。」&lt;br /&gt;
「やべっ、タオ何とかしろ！」&lt;br /&gt;
「彼はその覚悟を持ってやったのでしょう。&lt;br /&gt;
　自らの命と引き換えにでもバラントレイ殿の命を救うことのほうが、&lt;br /&gt;
　この戦況では価値があると。」&lt;br /&gt;
「覚悟できてるからって、つーか、そんな心意気見せられて見捨てられるか！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ソムはそう叫ぶと手にした剣を投げた。&lt;br /&gt;
剣はマストをよじ登る一番先頭の万鬼をマストに縫い付けた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「お見事。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
万鬼が武器を無くしたソムに迫る。ソムは地面に転がり落ちていた剣を拾う。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「タオ！お前ならバンドレアを助けられるだろ！」&lt;br /&gt;
「やってみましょう。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオは防衛陣から数歩踏み出すとマストへ向かった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
万鬼が襲いかかる寸前、懐に飛び込む。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「失礼。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
その万鬼はそのまま宙を舞い、マストによじ登っていた万鬼とぶつかる。&lt;br /&gt;
タオは次々と万鬼をマストにぶつけていった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&quot;魔弾&quot;を救い出すぞ！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
戻ってきたバラントレイの一団がマストへと切り込んでいく。&lt;br /&gt;
タオはその様子を眺めると、踵を返しレイブンのほうへ歩いていった。&lt;br /&gt;
迫る万鬼を軽くかわしながら、散歩する足取りでレイブンの前に立つ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「手合わせを。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
レイブンが言葉にならない叫びをあげる。&lt;br /&gt;
タオはふと後ろに身体を流すと、つられて襲い掛かる万鬼をレイブンにむかって投げ飛ばした。&lt;br /&gt;
レイブンは一振りでその万鬼を両断する。人間業には出来ない膂力の賜物だ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「なるほど。ではこれは？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオは再び万鬼を誘い、投げ飛ばす。レイブンがその万鬼を切り捨てるそのタイミングを見計らい、もう一体。さらにもう一体投げ飛ばし、掌底で加速させる。&lt;br /&gt;
レイブンは振り切った剣を引き戻すと、その勢いのまま飛んできた万鬼を払い、二体目を左手で受け止め、剣を返し切り裂いた。&lt;br /&gt;
それらの行動をほぼ一息で行い、両手の動きだけで三体の万鬼砲弾を捌いた。&lt;br /&gt;
体の軸は一切ぶれない。恐るべき手技の速さであった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「良し。この程度で仕留められるような者ではないと。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオの言葉はどこか嬉しそうだった。&lt;br /&gt;
レイブンが吠えた。万鬼達はタオに襲いかかるのをやめた。&lt;br /&gt;
タオが万鬼の間合いに踏み込んでも微動だにしない。それは万鬼を砲弾代わりに使えないことを意味した。&lt;br /&gt;
タオ自身の筋力では万鬼を投げ飛ばすことはおろか、持ち上げることも出来ない。万鬼が襲い掛かってくる力の向きを操り、軸をずらし、重心を変化させることで投げ飛ばしているのだ。いわば万鬼自身の力で飛んでいるに過ぎない。万鬼が襲い掛からなければ万鬼を投げ飛ばせないのだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「１対１をお望みですか。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
タオはレイブンの周りを緩やかに廻りはじめる。&lt;br /&gt;
レイブンは剣を構えたままタオを正面に見据えるように足を入れ替える。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
レイブンの剣技はイスクリマと呼ばれるシカラグァのレーグラント氏族領で伝わる剣技が元になっている。「払う」「掴む」「斬る」という動作を両手を用い、ほぼ一挙動で行うその技は、数多くの剣技の中でも優れた剣速を誇るが、万鬼と化したレイブンのそれは、もはや神速と言っても過言ではなかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
二人の間合いが徐々に近づく。&lt;br /&gt;
徐々に二人の間の空気が張り詰めていく様がソムのところからも見て取れた。&lt;br /&gt;
しかしタオはその顔に微笑みを浮かべ、緊張を感じさせない。&lt;br /&gt;
余裕の表れか、はったりか。&lt;br /&gt;
対するレイブンは牙を剥いたまま、死者に闘争本能があるのかは不明だが、凶暴さを隠そうとはせず、それでも待ちの構えを取っていた。&lt;br /&gt;
間合いに入れば即斬るといった構えだ。&lt;br /&gt;
見つめあったまま、緊迫した静寂が戦場に満ちる。&lt;br /&gt;
いつ仕掛けるか、じりじりと時が過ぎてゆく。&lt;br /&gt;
数呼吸に過ぎない時間が、永劫に感じられたその時、船が揺れたその瞬間を見計らって、タオは膝の力を抜き、滑り出した。&lt;br /&gt;
動作の起こりを見抜けなかったレイブンは反応が一瞬遅れた。&lt;br /&gt;
気付いたときにはタオはレイブンの懐深くに潜り込んでいた。&lt;br /&gt;
その手はレイブンの腹に添えられている。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
レイブンがタオに剣を振るうよりも先に、タオは足を踏み込んだ。&lt;br /&gt;
自らにかかる沈下力と、足先から全身を使い生み出す纏絲力を重ね、押し込む。&lt;br /&gt;
派手な音と共にレイブンの体が宙を舞った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　＊　　　＊　　　＊&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ライは船倉に駆け下りる。&lt;br /&gt;
扉をノックしようとして、思い直した。乗客の精神状況でここを開けるとは思えない。説得する自信もなかったし、その時間も惜しい。何より、中がそんな余裕のある状況かどうか怪しかった。&lt;br /&gt;
ライは意識的に自らの構成を緩め、壁を透り抜けた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そこには隅っこに転がる一人の少女と、それを庇うようにする神官。&lt;br /&gt;
そして、それと対峙するように手に棒やら思い思いの武器を手にした乗客の姿があった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「その女がいたから、この船は化け物に襲われたんだ！」&lt;br /&gt;
「今すぐ仕留めろ！海に放り出せ！」&lt;br /&gt;
「落ち着きなさい。今この者を放り出したところでどうなるというんです？」&lt;br /&gt;
「どけよ神父さん。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「…どうなってるんだ？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ライが呆然と呟く。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「荷物の影にね、密航者がいたんですよ。それも女性の。&lt;br /&gt;
　で、誰かが『死者に襲われたのは女を船に乗せたからだ』って。&lt;br /&gt;
　まったく。恐怖に苛まれる人々は、時に面白い思考をするものですね。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ライの横付近でモスタルグィアのエグバートが他人事のように言った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
------------------------------------------</description> 
      <link>http://terraromarog.blog.shinobi.jp/%E2%97%8B%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%87%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%A1%E3%83%B3/%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%80%80%EF%BC%97%EF%BC%8F%E3%82%BF%E3%82%AA%EF%BC%88%E3%81%88%E3%82%93%E3%82%84%EF%BC%89</link> 
    </item>
    <item>
      <title>鳴らない三味線　2／ストック（さるぞう）</title>
      <description>PC　　　ストック&lt;br /&gt;
NPC　　　カミヤ　（オオタニ　フルイケ　メメコ）　婆ちゃん&lt;br /&gt;
場所　　今じゃない時と場所&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
----------------------------------------------------------------&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
電車に乗り込んだ後も、違和感は続く。&lt;br /&gt;
つり革に手を掛け、ゴトンゴトンとレールが奏でる音に耳を預ける。&lt;br /&gt;
そして何度目かの違和感。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（街が・・・歌っていない？）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
直感的にそう思う。&lt;br /&gt;
普段なら、音が連なりリズムを奏で、自然と音楽が生まれる。&lt;br /&gt;
だけど、違った・・・&lt;br /&gt;
ストックの体を流れるリズムが音楽として伝わってこないのだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
自然と周りを見渡す。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
いつもならどこかに一人位ヘッドホンを耳にする若者が居る筈。&lt;br /&gt;
しかし、一人もいない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
鼻歌を口ずさむ人も居ない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
車掌のアナウンスすら歪に聞こえてくるような感覚。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
酸素が薄くなっていく様な奇妙さに思わず息を大きく吸い込みたくなる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「×○○～×○○～、御降りの際は～」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ストックは自らが降りる駅名に、ハッと我を取り戻す。&lt;br /&gt;
車掌の調子っぱずれのアナウンスに顔をしかめてホームに降り立つ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ガヤつくホームのベンチに座ると、バックからヘッドホンを取り出し耳に掛け&lt;br /&gt;
再生ボタンに手を掛ける。&lt;br /&gt;
このボタンを押せば、いつも聞いている”音”が”音楽”となって耳に流れ込むはず。 &lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
願いにも近い想いでボタンを押す。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（どうなってるんだろ、買ったばかりだぞこれ）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
願い叶わず、”音”はするが”音楽”ではない。&lt;br /&gt;
音は飛び、旋律も無く、雑音だけがヘッドホンを通し耳に流れ込む。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
故障を願うような思考に自らが傾く事を感じる。&lt;br /&gt;
直感はすでに故障などではない事を告げている。&lt;br /&gt;
それでも・・・である。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そして&lt;br /&gt;
じっとしている訳にもいかず、家路に向う事を決め駅を出た時に&lt;br /&gt;
絶望感にも似た確信を得た。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
”音楽”が”消えた”のだと・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
街からは何一つとして音楽が聞こえてこない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
店頭から流れてくるはずの音楽は乱れ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
歩む人々は空ろな目でその音すら耳に入らない様子で。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
いつも楽しそうに噴水の前でギターを引いてた男は&lt;br /&gt;
街角でギターを抱えたまま座り込んでいる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（どうなってる？何が起きた？）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
焦燥感だけがストックを襲い、ヨロつきながらも自然と駆け出した。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（悪い夢でも見てるのか・・・）&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
目が回るような感覚、目の前がぼやけ、思考が出来なくなってくる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
!&quot;#$%&amp;''()!&quot;$%&amp;''()(''&amp;%$&quot;#$%&amp;=~|)(''&amp;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
思考を呼び覚ますかのような”異音”が携帯電話から響いた事に気が付けたのは&lt;br /&gt;
バイブレーター機能が妙な振動をしたおかげか。&lt;br /&gt;
電話の表示名は「カミヤ」だった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「もしもし？」&lt;br /&gt;
いくらかの平常心を取り戻しカミヤであろう電話に返事を返す。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「なぁ、気付いたよな？俺だけじゃないよな？」&lt;br /&gt;
上擦り、怯えた様な声でカミヤは開口一番問い掛ける。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「うん、変だよ、”音楽”が消えた。」&lt;br /&gt;
ストックはなんと表現して良いのか解らなく、そう言った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「お前は弾いて見たか？・・・俺は・・・・・もういやだよっ！」&lt;br /&gt;
かなり取り乱しながら最後は叫ぶカミヤ、普段の明るい彼の様子は全く感じられない。 &lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
弾いて見たか？とは無論二人の共通の楽器である三味線の事だろう。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「まだ、ケースに・・・・・」&lt;br /&gt;
そう答えたときには携帯電話の向こうの声は途絶え、聞こえるはずのツーツーと言う音 &lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
すら只の異音と化している。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「カミヤ？どうしたのカミヤっ？」&lt;br /&gt;
切れた電話に向って問いかけても返事が無い事はわかっていても&lt;br /&gt;
そうせずにいられなかった。&lt;br /&gt;
再びカミヤに繋ごうとしても繋がらない。&lt;br /&gt;
他のメンバーにも&lt;br /&gt;
登録されてる他の人たちにも・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（携帯電話が使えなく？音楽と関連のあるものが全部使えなくなってる？）&lt;br /&gt;
あまりにも適当な仮説を立てる。&lt;br /&gt;
それに対し殆ど意味の無い確信を持ちながら再び家を目指す。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ガチャリとドアを開け、祖母の居るはずの部屋へ急ぐ。&lt;br /&gt;
「婆ちゃん！？」&lt;br /&gt;
奇妙な焦燥感にあおられる。&lt;br /&gt;
そして、奥にある居間の襖を返事を待たずに開けると&lt;br /&gt;
「どうしたんだい？まぁまぁ慌てて・・・今御茶でも淹れるから」&lt;br /&gt;
などと、呑気な返事が返ってくる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ホッと息をついた、なぜか解らないが安心できた。&lt;br /&gt;
気を抜いたときにシャランと三味線の音が鳴った様な気がした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
途端に目の前がぼやける。&lt;br /&gt;
目の前にいた筈の祖母の影が薄く消えていく様に見えた。&lt;br /&gt;
続いて、家具、テーブル、部屋に存在したはずの全てが消えてゆく。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
薄れ行くストックの意識と共に・・・・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
―――――――――――――――――――――――――――――――――――</description> 
      <link>http://terraromarog.blog.shinobi.jp/%E3%82%BD%E3%83%AD/%E9%B3%B4%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E4%B8%89%E5%91%B3%E7%B7%9A%E3%80%802%EF%BC%8F%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%83%E3%82%AF%EF%BC%88%E3%81%95%E3%82%8B%E3%81%9E%E3%81%86%EF%BC%89</link> 
    </item>
    <item>
      <title>鳴らない三味線／ストック（さるぞう）</title>
      <description>PC　　　ストック&lt;br /&gt;
NPC　　　カミヤ　オオタニ　フルイケ　メメコ　婆ちゃん&lt;br /&gt;
場所　　今じゃない時と場所&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
------------------------------------------------&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ガヤつく雑踏、今じゃない時、此処ではない場所、コンクリートとガラスで出来た街&lt;br /&gt;
陽炎を上らせるアスファルト、排気ガスとクラクションの騒音。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
此処は今じゃない時と場所の世界・・・・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「おーい、ストック～、今度のライブ準備良いか？」&lt;br /&gt;
五尺程の四角いケースを肩に掛け隣を歩く黒髪の少年が声をかけてくる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「うん、大丈夫だよカミヤ、僕のほうは完璧」&lt;br /&gt;
にっこりと小首を傾げながらストックと呼ばれた少年は&lt;br /&gt;
同じく肩に掛けてあるケースを軽く持ち上げて見せた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
皮製のスリムなパンツに和をモチーフにしたであろう黒いジャケット。&lt;br /&gt;
そして端正だがちょっと印象に乏しい顔立ちと纏っている空気は&lt;br /&gt;
ライブという言葉があまり似合いそうに無い。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「楽しみだな、今度のライブ。&lt;br /&gt;
チケも全部捌けたし、あと心配は新しく作ったあの曲だけだけど。」&lt;br /&gt;
カミヤと呼ばれた少年はニコニコとこの週末に行われる箱での演奏を想像しているらしい。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
夏休みはもうすぐ、彼等の夏の始まり・・・・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そしてストックの永遠の始まり・・・・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ストック・ミュー・カワモトは高校2年生。&lt;br /&gt;
癖の無い茶色の髪、茶色い目、多少色白の少年。&lt;br /&gt;
身長も高いとは言えない、体格も太っていないだけで、筋肉質というわけでもない。&lt;br /&gt;
穏やかで静かな性格は敵も作らず&lt;br /&gt;
積極的とは言えない行動力は多くの友達を作ることも無かった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
所謂、”影の薄い少年”と言えるかも知れない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ねぇ、婆ちゃん、ここ、もっと強く弾く様な方で行きたいんだけど・・・」&lt;br /&gt;
ストックが構えた撥（ばち）をシャンと弾きながら尋ねたのは&lt;br /&gt;
早くに両親を失った彼を育てたのは今の彼に”三味線”と呼ばれる弦楽器を教えた彼女。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「お前の好きな様にお弾き、御三味（おしゃみ）が全て語ってくれますよ。」&lt;br /&gt;
ニコニコと、彼の紡ぎ出す音を聴きながら、そう答える。&lt;br /&gt;
ストックが穏やかに育ったのは、彼女のそんな気質からかもしれない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そして対面に座った彼女は背筋を伸ばし撥を握り&lt;br /&gt;
ストックが奏でた旋律と同じ旋律を紡ぎ出す。&lt;br /&gt;
同じ旋律なのに、違う音楽に聞こえる・・・&lt;br /&gt;
ストックは聴き惚れる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　　　　　　　　　　　御三味にはね&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　　　　　今迄過ごした時間と思い出が乗るの&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　　　　　　　　　　　それを紡ぐの&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　　　　　　　　　　　いつか解るわ&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
遥か昔に聞いた様な声は、幻なのか、現実なのか、それすら解らない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「おい！おいったら！ストック？」&lt;br /&gt;
揺り起こされる。&lt;br /&gt;
自分が今どこに居るのか解らない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「大丈夫か？もうすぐ時間だぜ？」&lt;br /&gt;
赤毛の大きな体格の男が太鼓の撥を片手に肩を揺する。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ、オオタニ君、平気ボーっとしちゃってた。」&lt;br /&gt;
読み取ろうとしなければ判り辛い”作った笑顔”。&lt;br /&gt;
自分でも誤魔化せたかどうか解らない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「気合が足りない・・・あと1時間でリハ・・・」&lt;br /&gt;
ショルダーキーボードを確認しながら茶髪の小柄な女の子が眼鏡をクイッと上げる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そこまで言うなよメメコ、リハーサル前で緊張してんのさ」&lt;br /&gt;
カミヤも調弦を確認しながら爽やかに笑う。&lt;br /&gt;
彼の場所を制する空気は天性のものなのだろう。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「あーーん？ストックの寝ぼけは今に始った事ぢゃねーじゃん？」&lt;br /&gt;
巻き舌＆スキンヘッドに鶴と亀のペーパータトゥを貼り付けたフルイケはカラカラ笑う。&lt;br /&gt;
自称”小節の回るロックシンガー”らしいが&lt;br /&gt;
誰も突っ込まないのは優しさか。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（なんだろう、音が・・・音楽がわからない）&lt;br /&gt;
そして、リハーサルが終わった後ストックは違和感を感じていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
昨日まで、いや、さっき起される前までは”音”が絡み合って”音楽”&lt;br /&gt;
を作り出していた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
（でも、違う・・・今迄沢山練習したのに・・・なんだろう、この違和感・・・）&lt;br /&gt;
ストックは違和感を感じたまま地下鉄に乗り込んでいった・・・&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
********************************************************</description> 
      <link>http://terraromarog.blog.shinobi.jp/%E3%82%BD%E3%83%AD/%E9%B3%B4%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E4%B8%89%E5%91%B3%E7%B7%9A%EF%BC%8F%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%83%E3%82%AF%EF%BC%88%E3%81%95%E3%82%8B%E3%81%9E%E3%81%86%EF%BC%89</link> 
    </item>
    <item>
      <title>カットスロート・デッドメン　6／ライ（小林悠輝）</title>
      <description>------------------------------------------&lt;br /&gt;
PC：タオ, ライ&lt;br /&gt;
場所：シカラグァ・サランガ氏族領・港湾都市ルプール　-　船上&lt;br /&gt;
------------------------------------------&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ……もう、面倒臭いなぁ」&lt;br /&gt;
　ライは振り向きざまに投矢を放った。砲門の穴から這い出ようとする海賊の額に命中し、重量と勢いによる反動で頭を仰けぞらせる。「蓋して！　そこらへんの箱や樽でいいから！」&lt;br /&gt;
　声を上げるが、怯えた乗客は動かない。ライは舌打ちした。その間にも海賊は体勢を立て直し、船内へ乗り込んだ。投矢は既に消え、額に穴を開けたまま、痛みは感じていなさそうだった。乗客たちが悲鳴を上げ、狭い空間を逃げ惑う。&lt;br /&gt;
　ライは、戦うには彼らが邪魔だなと思いながらこぼした。「……本当、面倒臭い。なんで船に乗ると必ず海賊に襲われるのさ」&lt;br /&gt;
「きみは守り神じゃなくて疫病神だったのか」急に声がしたので横目にすれば、モスタルグィアのエグバートが感心したような表情で海賊を見ていた。&lt;br /&gt;
「何、馬鹿なこと言ってるの？」&lt;br /&gt;
「あれは万鬼だな。東方のアンデッドだ」&lt;br /&gt;
「へぇ」ライは無関心に答えて海賊に向かった。放っておくわけにもいかない。「爪に毒があるぞ」「だから？」背後からの声に問い返し、今まさにその爪を乗客に向けて振り下ろそうとしていた海賊の背に、抜き様の剣で切りつける。実体のない刃は血の気のない肉に食い込み、物理的な傷はつけられないまま、内部の魂か精神だか大体そんなようなものを裂いた。&lt;br /&gt;
　刃を通して、腕に何かが絡みつくような手応えがあった。ライはぞっとして剣を引く。&lt;br /&gt;
　海賊は糸が切れたように倒れ、動かなくなった。&lt;br /&gt;
「あ……あ……？」襲われてた乗客は腰を抜かしたままがたがたと震えている。視線は海賊の骸にあった。ライは、こんなものは何でもないのだと示すように海賊の背を踏みつけた。乗客は怯えた目で顔を上げる。&lt;br /&gt;
　ライは言った。「……穴、塞いで。壊れてないところも。たぶん砲はもう使えないからどかしていい。じゃないと、これがまた来るよ」&lt;br /&gt;
　乗客はすぐには反応できず、周囲に救いを求める視線を泳がせた。他の乗客たちは何の役にも立たなかったが、神父がやたらと重々しく頷いた。聖職者が言うならと、数人が躊躇いながらも動き出した。&lt;br /&gt;
　行動が始まれば早かった。絶対的な危険に対して、自分たちでも何らかの対処を行うことができるのだという希望は、どうやら活力に繋がるらしい。作業の途中で二度、海賊が乱入したが、犠牲者は一名にとどまった。襲ってくる海賊はライが仕方なく倒したが、海賊が突き破った砲門の蓋に板を打ち付けようとしていた者だけは助けられなかった。彼は蓋を裂く爪で頭を共に引き裂かれ、即死だった。&lt;br /&gt;
　神父が彼のために祈った。哀れな犠牲者の為というよりは周囲の人々を落ち着かせるためだった。&lt;br /&gt;
　ライは剣を消して右の腕をさすった。粘つく糸が絡みついているような気味の悪さがまだ残っている。アンデッドを斬ったことは何度もあるが、何の手応えもないことが常だった。この感触が東方アンデッド特有のものだとしたら、本当、勘弁して欲しい。&lt;br /&gt;
「底層は無事みたいだ」と乗客の誰かが言った。「窓もないし、頑丈だから、立て篭れるかも知れない」&lt;br /&gt;
「荷は？」エグバートが尋ねた。彼の落ち着きは幾らか憎たらしく感じた。&lt;br /&gt;
「小さいのを幾らか、ここの窓を塞ぐのに運び出した。お陰で余裕がある」&lt;br /&gt;
　何人かは迷ったが、少しでも完全な場所へ避難したいと求める乗客たちの希望に寄って、彼らは底層へ移動した。がらんとした空間に、波音と甲板の騒ぎが響いている。&lt;br /&gt;
　ライは上へ向かった。頭上から、人間の声がほとんど聞こえなくなっていることが気になったのだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　階段上に、赤髪の後ろ姿が見えた。&lt;br /&gt;
「健闘してるね」&lt;br /&gt;
「まあね。手伝いに来たのか？」&lt;br /&gt;
　ソムは息を切らしながら問い返してきた。その間にも彼に向かって剣を振り下ろしたのは、護衛仲間の一人だった。嫌に蒼白な肌。顎を掠め、喉元に牙の痕が残っている。ソムは身を翻して躱し、そのまま後退した。「ちょっと休憩」と言って彼は左手を上げる。ライはぱんと掌を合わせて代わりに前に出て、ソムを追おうとした元仲間を斬り倒した。&lt;br /&gt;
「って、なんで普通に手伝わせるの!?」&lt;br /&gt;
「殺された連中まで起き上がって襲って来やがる。剣で殺せないから一々バラさなきゃいけなくて体力が持たない。ところでそれ魔法の剣か？」&lt;br /&gt;
「実は剣じゃないから貸せない。味方は何人残ってる？」&lt;br /&gt;
「バラントレイとレットシュタインは残ってるだろうが、後は知らない」&lt;br /&gt;
「レットシュタイン？」&lt;br /&gt;
「あー、タオ」&lt;br /&gt;
「なんでわざわざ長く呼ぶの？」言いながら、新手がソムに襲いかかるのを、横から喉元を裂いて倒す。死体には傷ひとつつけていないが。&lt;br /&gt;
「“ちいさくて強いお兄さん”より短いと思うね」ソムはぼやいた。彼は、はあと息を整えた。「よし、サンクス」&lt;br /&gt;
「じゃあ頑張ってね。あ、乗客は底層の倉庫に立て篭もってるけど、あの怯えようじゃあ、扉叩いても開けてくれないと思うよ」&lt;br /&gt;
「退いたら死ぬってはっきり言えよ！」&lt;br /&gt;
「他の人と合流したら？」&lt;br /&gt;
「ここ空けたら、ヴァンプが下に雪崩れ込むだろ」ソムは嘆息した。「まったく、戦闘狂は自分が楽しみに行くことにしか興味がなくて困るね。護衛の仕事だって忘れてんじゃないのか」&lt;br /&gt;
「じゃあ誰か呼んでくるよ。甲板上に、他に守るところはもうなさそうだし」&lt;br /&gt;
　ライは彼の元を離れた。離れる間際、また、他の海賊がライの横をすり抜けてソムに向かって行った。ライは違和感を覚えてその後ろ姿を眺め、船室への出来事を思い返した。他の人間を襲う海賊ばかりを横から倒してきた。直接、襲われてはいない。どころか、海賊たちはこちらに注意を払いもしない。&lt;br /&gt;
（……このアンデッド共には、僕は見えていない？）&lt;br /&gt;
　ライは近くにいた海賊の目の前にひらひらと手を翳してみたが、海賊は無関心のまますっと余所へ行ってしまった。折角なのでそれを背中からばっさり斬りつけてから、甲板上を見渡した。霧のために見通しは悪い。&lt;br /&gt;
　死体が重なり、その幾つかは起き上がろうと身悶えしている。切り落とされた四肢や頭部があちこちに転がっている。灯火は倒れ、幾つかは消え、幾つかは死体や木材に引火し周囲を照らしていた。&lt;br /&gt;
　周囲を覆う血と死の臭い。霧となって立ち上る瘴気。&lt;br /&gt;
　見上げれば絢爛な夜空だった。無数の星屑、白い満月。&lt;br /&gt;
　ライは船員の死体を乗り越えた。そして気づいた。下には乗客だけが残されていた。甲板上に立っているのは数人の護衛だけだ。たとえ、海賊たちが諦めて去ったとして、誰がこの船を陸まで動かすのだろうか？&lt;br /&gt;
（船長とか……が、指示すれば、一般人にも船は操縦できるのかな）&lt;br /&gt;
　そんなことはないだろう、船は漂流する棺桶に成り果てるだろうと思いながらも、考えずにはいられなかった。考えて、ライは踵を返した。妙な不安を抱きながら船長室へ向かう。&lt;br /&gt;
「おや、幽霊詩人殿？」歩く間に声をかけられた。ライは相手を確認せずに答えた。「悪いけど急いでる。――いや、そこから動いちゃいけない理由がないなら、一緒に来て」&lt;br /&gt;
　背後から、人の気配が続いた。ライは船長室へ向かった。途中、背後で何度も短い戦いの音がした。&lt;br /&gt;
　扉に嵌められた硝子はただ黒く沈黙していた。乱暴に真鍮のノブを回したが、がちゃがちゃと音を立てるばかりだった。&lt;br /&gt;
「開けるのですか？」&lt;br /&gt;
「そう」ライはノブから手を放し、鍵と思われる部分を蹴りつけた。扉は悲鳴を上げたが、表面を潮に焼かれた木材は存外に上部らしく、びくともしない。&lt;br /&gt;
「僕、出港してから一度も、船長なんて見てない。客や護衛には他の偉い船員が挨拶したりしてたし、船員の統括もしてた。大きな船だから、船長が人前に出ることはないのかとも思ってたけど……」&lt;br /&gt;
　破裂音がして、鍵が爆ぜた。ライが驚き振り向くと、壊れた扉に掌底を当てたまま、タオが立っていた。ぎいと轢みながら扉が、開いた。中は暗闇だった。&lt;br /&gt;
「そういえば、空、見た？」&lt;br /&gt;
「霧で見えません。何かあるのですか？」&lt;br /&gt;
「……いや、何でもない」言いながら、扉の奥に視線を向ける。タオが背後を振り返り、どさとまた屍が倒れる音がした。&lt;br /&gt;
　ライは船長室に足を踏み入れた。暗闇には、熟れたような腐臭と、霧の冷気が満ちていた。一瞬、酷い眩暈に意識を失いかけたが、それでも足を進めれば、奥の異常は明確だった。そこにあるものを、視覚ではない感覚で理解していたが――ライは手を伸ばして卓上灯に火を入れた。&lt;br /&gt;
　橙の火に照らし出されたのは、奥の机に座した腐乱死体だった。元は質のよい衣装であった布は腐汁を吸って染まり、食み出た肉は半ば溶け、骨の間を滴っている。爛れた筋肉を蛆が這い、羽化して飛んでは地に落ちる。足元には、無数の蝿の死骸が積み重なっている。&lt;br /&gt;
「……」後退りすると、乾いた蝿の死骸ががさと鳴った。目の前にあるのは死体だった。船長室に破られた形跡はなく、死から短くはない時間が経っていると思われた。出航前から。あり得ない。これでは、海賊と、どちらが幽霊船だかわからない。&lt;br /&gt;
「幽霊詩人殿」&lt;br /&gt;
　外から声を掛けられた。ライは視線だけで振り向いた。状況の不自然さが、腐乱死体に背を向けることを拒ませた。「死んでる」ライは答えた。「死んで、腐ってる」&lt;br /&gt;
「……用事は済みましたか？」&lt;br /&gt;
「用事」タオの無関心さに苛立を感じながら呟いた。用事。ここに来て、何かをしようと思っていたわけではない。ただ確かめたかっただけだ。船長が生きているのか、いないのか。或いは、実在するのか、しないのか。ついては――ここは船上なのか、棺中なのか。&lt;br /&gt;
　それでも、用事などなかったと言うのはなんだか癪で、ライは答えた。「もう少しかかる……けど、さっきソムがへばってたから、先に見に行ってあげて」&lt;br /&gt;
「彼はどこに？」&lt;br /&gt;
「船室に降りる階段の前で護衛らしいことしてるよ。中には客がいるから」&lt;br /&gt;
「……わかりました」&lt;br /&gt;
　ソムの気配が遠ざかった。ライは躊躇いながらも、机へ近づいた。蝿の死骸に埋もれて、一冊の本が置かれていた。これが、よく聞く航海日誌というものだろうかと思いながら、ライはそれを手に取った。&lt;br /&gt;
　未だ気味の悪さが絡みつく右手。黒点のような死骸を払い、朽ちた黒革の表紙に触れる。&lt;br /&gt;
　指先から、凍えるような冷気が伝わった。&lt;br /&gt;
　ライは反射的に手を放した。指を縁にひっかけてしまい、本はばさと音を立てて開いた。虫に食われ、腐った羊皮紙。記されているのは、日付と航路、風向きと、やはり、想像していた航海日誌そのものだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
“――2000　風力３、雲量３以下晴れ、やや波がある&lt;br /&gt;
　　　2030　航海灯異常なし。巡回点検異常なし　　　”&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　内容には変哲がないように見えた。日付は、八年前だった。&lt;br /&gt;
　ライはそのことに気づいて青ざめた。途端に外から風が舞い込み、本の頁がばらばらと捲れた。撒い上げられた蝿が黒い嵐のように荒れ狂った。部屋中の調度が倒れ、風に弄ばれた腐乱死体から肉と汁が飛ぶ。ライは咄嗟に目を庇ったが、実体のない亡霊にそれらの物理的なものが危害を及ぼすことはなかった。染み入るような気味の悪さに目を細める。&lt;br /&gt;
　乱れた部屋で、机上の本だけがそのままあった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　　　“おお、我が神よ。貴方の言こそ真であった。&lt;br /&gt;
　　　　　水も尽き、皆は争って死んだ。&lt;br /&gt;
　　　　　　今や生は苦痛に過ぎぬ。我ら罪深き者には死こそが救い。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　　　　　　　　　　　　　　　　　ミランダ、すまない。帰れぬ私を許してくれ。”&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　外で、誰かが一際高い悲鳴を上げた。甲板からにしては遠い声だった。&lt;br /&gt;
　ライは身を翻して外へ出た。海風はますます強く、霧は深かった。</description> 
      <link>http://terraromarog.blog.shinobi.jp/%E2%97%8B%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%87%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%A1%E3%83%B3/%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%80%806%EF%BC%8F%E3%83%A9%E3%82%A4%EF%BC%88%E5%B0%8F%E6%9E%97%E6%82%A0%E8%BC%9D%EF%BC%89</link> 
    </item>

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