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2025/11/15 07:36 |
15.君の瞳に絡む視線/ジルヴァ(夏琉)
PC:(マックス) ラルク ジルヴァ
NPC:ナーナ=ニーニ
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
―――――――――――――――――――――――――――

 先ほどの空から降ってきた花びらは、自分たちだけがみたものではなかったらしい。

 その証拠に、外を歩く人々は、浮足立った様子で先ほどの現象を話題にしていた。

「…まさか、シカラグァっていうのはさっきみたいなのがしょっちゅう降ってくるわけじゃないだろうね」

「そんなわけないですよ。僕も、何年もこの街に住んでますけど、あんなの初めてですし」

 それにしてもきれいでしたねぇ、とラルクはまたへらっと笑う。

「言い眺めだったってのは否定しないけどね。あたしゃ、あんなのがしょっちゅうなのはごめんだよ」

 ジルヴァはまだざわざわする両腕を擦る。
 先ほど大気中に満ちていた魔法の力は今は霧散しているものの、不快感はまだ残っていた。

 なぜ、自分が魔力に対してこのような反応を示すのか、実はジルヴァ自身も知らなかった。
 まわりの人間がそういうものとして扱ってきたのでとくに疑問に思うこともなかったが、実は相当特殊な体質だと自覚したのはここ数年のことだ。

「あれ…あの人」

 夕方に寄ったラルクの宿にジルヴァが強引についていく流れになっていたのだが、ラルクが不意に足を弛めた。

「なんだい?」

「あの人…さっき昼間の人じゃないですか。ほら、ジルヴァさんの宿から出てきた」

 ジルヴァは、ラルクの視線の先をたどって、口元をゆがめた。

 街道を大股に歩いてくるのは、黒い女。
 この国の人間ではないことを示す漆黒の肌と、それを露出させる特徴的な衣装の彼女は、店の明りに照らされて行き交う人たちから浮き上がって見えた。
 
 ラルクが彼女に気づいたときには、ナーナ=ニーニはジルヴァに気付いていたのだろう(なにしろ、ジルヴァも彼女以上に目立っている)。ジルヴァの視線を捉えて、ぐんぐん近づいてくる。

 そして、ナーナ=ニーニは立ち止まると、目をまるくしているラルクを完全に無視して、ジルヴァを見下ろして言った。

「アノ人ハ?」
 
 この場合の“あの人”とは、考えるまでもなくジルヴァのつれの男のことだ。
 まるでジルヴァが男を隠しているとでも思っているかのように、強い口調で問う。
 
「知らないね。あんたが置いてきたんだろ」

「本当ニ?」

「嘘ついてどうすんだい」

 ジルヴァはナーナ=ニーニを見上げて、睨みつける。
 ナーナ=ニーニも、ジルヴァに怒気を含んだ視線を返すが、本当にジルヴァが何も知らないと判断したのだろう。視線を外して、先に歩きだそうとした。

「待ちな」

 ジルヴァは、持っている杖をしゃらんと鳴らしてナーナ=ニーニを呼びとめる。
 彼女は、表情は強張っているが、足を止めて振り返った。

「あんだけ騒がしといて。いったい何が原因だったんだい」

 呆れた様子でジルヴァは問うた。

 ナーナ=ニーニとジルヴァはシカラグァまで、いろいろ諍いはありながらも一緒に旅をしてきた間柄だ。
 ナーナ=ニーニは直情的な性質と属してきた文化圏の影響からか、些細なことからジルヴァに嫉妬をしたり男に腹を立てたりしていたし、物品の破壊も少なくなかったが、さすがにここまで行動の理由のわからない状態はなかった。
 ナーナ=ニーニの無事は確認ができたし、ナーナ=ニーニに弱気な様子がないところから男の無事も確実なのだろうが、蚊帳の外というのはあまりよい気分はしなかった。

 あまりこのあたりの言語の語彙が多くないナーナ=ニーニはしばらく考えて言葉を探していたようだが、短い言葉を口にした。

「浮気」

「はぁ?」

 あまりに簡潔すぎる返答に、ジルヴァが聞き返す。
 ナーナ=ニーニは、眉間にしわを寄せて、考えると、さらに言葉を重ねる。

「金髪ノ女ガ…」

「金髪の女?」

「ン…」

 どう伝えればよいのか、それともジルヴァにこれ以上伝えるべきか否かを悩んでいるのか、ナーナ=ニーニはさらに眉間のしわを深くする。

「モウイイ」

 しかし、きっぱり諦めてしまったようで、それだけ言い捨てると、またくるりと踵を返す。
 その後ろ姿は、ジルヴァとのこれ以上の会話をきっぱりと拒否していた。
 
「もういいって…、あんたはよくてもあたしはちっともわからないじゃないか」

 声をかけるわけでもなく、ジルヴァは呟いた。

「うわぁ…、なんだか、すごく迫力のある人ですね…というか、ジルヴァさん、知り合いだったんですね」

 ジルヴァとナーナ=ニーニのやり取りの間、見事に存在を無視されていたラルクが、ナーナ=ニーニの後ろ姿を見送って言う。
 何がおもしろいのか、うっすら興奮しているようだ。

「まぁ、胸糞悪いことにその通りだよ。知り合いの知り合いってとこだね」

 詳しい説明をする気はさらさらなく、ジルヴァはそれだけ答えた。

 浮気と金髪の女という言葉だけを捉えれば、おそらくは男が自分以外の女といるところをナーナ=ニーニが目撃してぶちぎれた、というのが大まかな筋なのだろう。
 ナーナ=ニーニの言い淀んでいる様子から考えると、もう少し面倒な事情があるのかもしれない。 

 そういえば、ラルクがブロンドの女性がどうとか言っていたように思う。
 このあたりでは金髪の女は多くはないようだが、ジルヴァやナーナ=ニーニほど目立つものではないだろうし、特に関係はないだろうが、ジルヴァは少しひっかかりを覚えたのも事実だった。

 
――――――――――――――――――――――
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2010/02/03 02:41 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳
モザットワージュ - 2/アウフタクト(小林悠輝)
件名:

差出人: 小林さん "小林"
送信日時 2009/12/31 02:56
ML.NO [tera_roma_2:0941]
本文: PC:アウフタクト
場所:ソフィニア-魔術学院

------------------------------------------

(随分と様子が変わった……ような、気がする)
 アウフタクトは無機質な廊下を進みながら、そう思った。
 最後にソフィニアを訪れてから二年と経っていないが、魔術学院の敷地に足を踏
み入れるのは、七年か、或いは八年振りであるように思えた。というのも、成績不
良と校則違反で退学になってからというもの、学院に対して一切の用事も未練もな
かったからだ。
 元より学生時代からして、学業に対する思いは冷めたものだった。情熱に燃えた
時期もあったかも知れないが、その感覚は不確かだ。
 兎角、退学以来、学院とは縁のない人生を送ってきた。
 それが再び、研究棟の廊下を歩いている。時を遡りでもしたように現実感のない、
なんとも奇妙な気分だ。旅用のブーツの底に挟まった小石が床を叩く度、固い音が
響く。
 学部時代と内装は変わり様がないが、研究室の顔ぶれが変わったせいか、あちこ
ちに些細な違和感がある。三つの部屋を占有していた老齢の女教授は引退し、扉に
飾られていた華美な名札は消え失せている。扉の表面に残る接着剤の跡が、妙なも
の寂しさを感じさせた。
「先輩、こっちです!」
 行く手の扉から半身を乗り出した女が手を振っている。
 アウフタクトは余所見していた視線を彼女に据え、右手を上げ返した。手首で魔
除の銀鎖が鳴った。

 切掛は昨日だった。
 魔術の札を作るために必要な、特殊な墨を使い切ってしまったため、間道を抜け
てソフィニアに入った。
 魔術に使われるが魔力を持たないため販売を規制されていない品々を並べている
店で、その女に声を掛けられた。「あの、――先輩じゃ、ありませんか」
 振り向けば、立っていたのは五つ下の後輩だった。本来なら交流ないはずの年の
差だが、利発なその少女は高等部に籍を置いている頃から屡々、夕方になると、学
部の教養科目を聴講しに現れていた。目立たぬよう端の席を定位置にしていたアウ
フタクトは、たまたま隣に座った少女が覗き込める位置に教科書を動かしてやった。
それ以来の曖昧な付き合いだったが、退学と同時に途絶えた。
 少女はもう少女とは呼べない年齢になっていたが、相変わらず、利発そうだがど
こか無邪気な、昔と然程変わらない表情をしていた。「あの、このあと暇ですか?
 せっかくですから、飲みに行きましょうよ!」
 どうも昔の印象を消せず、彼女が酒を飲める年齢になったことに驚くあまり、つ
い頷いてしまった。そして気づけば、学生街の居酒屋で酒と焼き鳥を奢らされた上、
翌日の実験に付き合う約束まで取り付けられていた。

「この部屋、懐かしいでしょう! あたし今、ベニントン先生に教わってるんです。
先輩の担当教授だったって聞きましたよ」
「ええ、まあ。専攻分野が違うので、名目だけでしたが」アウフタクトは曖昧に答
えた。その教授は出張で留守だという。今更よく顔を出せたと嫌味を言われないの
は幸いだ。
 研究室は無人ではなく、数人の生徒達が屯していた。ベニントン教授は己が不在
の時でさえ学生のために書架を開放する稀有な――或いは酔狂な人物だったと、思
い出す。
 学生たちは一瞬だけ視線を上げたが、すぐにそれぞれの作業や読書に戻った。研
究室に卒業生が出入するのは珍しいことではないし、目の前ではしゃいでいる元少
女のことを知っているから、その同行人を必要以上に怪しむことはないのだろう。
「貴女、今、何年生でしたっけ?」
「四年です! 先輩と違って、留年なんかしてないですから」
 アウフタクトは苦い顔をした。「そういえば、実験って、何の実験です?」と話
題を逸らす。元少女は「こっちです」と研究室の奥へ進んだ。机と書架の先には、
簡素な仕切りで区切られた教授の机と、学生が実験や仮眠に自由に使える空間があ
る。
 自由空間の中央に設えられた台に鎮座していたのは、なにやら得体の知れない塊
だった。アウフタクトはその形を表す言葉を探したが、“本性の知れない”以上に
ふさわしい表現は見つけられなかった。大きさは両手で持てる程だ。木材や金属を
組んだ枠に、硝子球がいくつか嵌め込まれている。
「何です、これ?」
「個人の魔術特性を調べる機械です。クロフト式の診断機を元に作ったんですけど、
ちょっと精度を上げる細工をしたので、筐体に収まらなくて。見た目が悪いのは大
目に見てください」
「これが卒研なんて言いませんよね?」アウフタクトは呆れ声で尋ねた。
「まさか!」元少女は首を横に振った。「卒業研究が一段落ついたから作ってみた
んです。古典の再現をしてみたくて。でも、検体になってくれる人がなかなかいな
いんです」
「何故です? ちょっと手を置くだけでしょう」とはいえ、そのちょっとを忌避す
る魔術師は案外、多いが。
 元少女は困ったように首を傾げた。その頬の線は昔と変わらぬように見えた。
「……血が、必要なんです」
 笑い返しかけたアウフタクトは、表情を引きつらせた。「はい?」
「冗談ですよ」元少女はくすくすと笑った。「昨日、足りなくなった材料を買いに
出たときに先輩を見かけたので、声を掛けたんです。さっき完成したばかりなんで
すよ」
「はあ……それはご苦労様です」
「ほら、ここを触ると、この硝子球が光るんです。右から――」元少女は説明した
が、アウフタクトは聞き流した。クロフト式の診断機は、彼が教鞭と取っていた六
十年前に主流だった魔術特性の分類が廃れたためにすっかり過去の遺物になってし
まっている。こういった器具や分類法は流行りものだ。多くが発明され、多くが忘
れ去られた。次に本格的に実用化されると見られているのはベッケラート教授の検
査機器だったはずだ、というのも数年前の知識で、現在どうなっているのか知らな
い。
 少女が、こっちが光るとナントカ形で、こっちが……と話をしても、そういえば
そんな話を授業で聞いたことがあるかも知れない程度の思いしか沸かなかった。
 元少女が診断機の金属板に触れる度、左から二番目の硝子球が青く光る。やがて
彼女はアウフタクトを振り向いて、「さ、試してください」と言った。アウフタク
トは正直なところ、こういった診断機の類は好きではない。診断基準の正しさがあ
やふやで気味が悪いし、その癖、他の魔術師に手の内を晒すようで警戒心が働くか
らだ。
 それでも金属板に指先を当てた。きらきらした目の元少女を裏切るのは忍びない。

 硝子球は光らなかった。
「あれ」元少女は首を傾げた。「おかしいな」それから彼女は他の学生を呼び、な
んだなんだと集まった彼らにも試させた。硝子球はぴかぴかと光り、元少女から解
説を聞かされた学生達は、おーと感心の声を上げた。元少女は彼らをすぐに解散さ
せた。
「先輩、魔力ないんですか? そんなわけないですよね。一般入試だって言ってま
したし」
「よく覚えてるなそんなの。俺がどうして退学になったか、教授から聞いてないん
ですか?」アウフタクトはうんざりと呻いた。理由は簡単で、扱える魔力が少なす
ぎ、理論はともかく実践についていけなかったからだ。そして暴挙に走った。
 元少女は首を傾げた。「家の都合で自主退学、ですよね?」
「……まあ、恐らく」あの件は隠蔽されたのか、教授の進退に関わるもんなぁと思
いながら、答える。「やめるとき、きみに教科書あげればよかったですね、どうせ
あれきり読みませんでしたし。私はそんな真面目じゃなかったので」
 元少女は、はっとしたような表情をした。「あの、あたしもです。不真面目で。
本当は、あの頃、講義の内容なんてわけわからなかったし、教科書買ったり、調べ
たりとかしないで……教授の話がちょっとだけわかるから自分って頭いいんじゃな
いかって思えて……いい気になって」
 アウフタクトは元少女を横目にした。落第生をフォローするために、自分まで貶
めることはないだろう。急に深刻そうに語り出すことと併せて、彼女の昔からの悪
い癖だ。
 嘆息。
「真面目や秀才のポーズ決められるだけ立派だ。大抵は、表面と現実の違いに挫け
て脱落します」アウフタクトは誤魔化しの言葉を発しながらとんとんと金属板を叩
いた。
 一瞬、手首に熱が走った。同時に全ての硝子球が鋭く光り、歪な筐体の内部で、
何かが焼けるような音がした。光は何度か不揃いに点滅し、消えた。
「「――あ。」」
 二人が同時に声を上げた。アウフタクトは手を引っ込め、反対の手で手首を押さ
えた。診断機を使う際には、魔力を帯びた品は身につけるべからず。と、テキスト
の一文が今更ながら脳裏を過ぎった。あれそれこれと所持品を思い描くが、服の衣
嚢に入れっぱなしの触媒も含めて三種類以上を身につけている。強力なものも含め
て。
「あー……すいません。魔法系の道具、結構持ってて……」
「い、いえ、大丈夫です」元少女は、あまり大丈夫でなさそうな表情で首を横に
振った。
 アウフタクトは気は進まなかったがいくらかの罪悪感は覚えたので、診断機を眺
めながら申し出た。
「直すなら手伝いますよ。どうせ今日は暇しています」
「本当ですかっ?」少女は顔を上げ、両掌をぱんと合わせた。「是非お願いしま
す! あたしはこれを分解してどんな故障か確かめますから、先輩は、図書館から
資料を持ってきてくれませんか?」
 アウフタクトは思わず頷いた。年頃の女の子は元気だな、自分がこの子のテン
ションで行動したら十分と持たないだろうなと雑念を働かせていたら、欲しい文献
リストの何割かをしっかり聞き逃した。元少女もそれを察したのか、「とりあえず
分解図とか断面図とか、それっぽいのが載ってればいいですから」と言い直した。
「たぶん、先輩ならすぐ見つけられます。あっという間です、ばっちりです」
 何だその根拠のない期待は。
 アウフタクトは、努力しますと呻いた。窓の外で、小鳥が莫迦にしたような声で
鳴いた。

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2010/02/03 03:09 | Comments(0) | TrackBack() | ○モザットワージュ
白金の鮪/デコ(さるぞう)
PC   デコ

場所 北西部辺り(X50Y130)の小さな町チヌタナ

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「チヌタナクア」
大陸の北西に位置する離島郡の一つにある小さな町
山吹鮪と呼ばれる黒い魚体の背中に黄金色のラインが走る巨大鮪の漁を主産業とする。

山吹鮪の群れの先頭を泳ぐ白金の魚体を見た者は幸福を約束されるという眉唾の伝説
そして伝説から生まれた白金鮪タナクアを奉る町でもある。


**************************************************************************





「ったく、俺を便利屋位にしか思ってないのかね、くそったれ・・・」
白髪の多少混じった無精髭をボリボリと掻きながらタナクア(土着の現地神)
に対し毒づき遥か水平線をにらみつける。

桟橋に座り込んで船を待つ彼の名はデコ-バルディッシュ
司祭位を持つタナクアに仕える神官である。

司祭位を持つことが不思議なほどに不精な見た目。
猛禽類を思わせるような鋭い眼光と歯に衣着せぬ言動は聖職者を名乗るには全く持って似つかわしくない
そんな彼がその地位に居るのは単に「神託」を得る事が出来るためだ。

もっとも、小さな町の小さな小さな神殿の司祭でしかないのだが・・・

4年に一度彼に下される神託に従い彼はこの町を発つ。
山吹鮪は4年で成体と言える2M付近まで育ち新たな群れを形成し旅立ち
それに合わせたかのように神託を受けた4人の司祭達は、毎年旅立つ。

「毎度の事とは言え、世話焼きな神だ・・・人間の事は人間に任せればいいんだ。」
苦虫を噛み潰したように目をきつく瞑る。
島を取り囲むように寒流が流れ氷の上位精霊が住むと言われる永久氷窟存在するチヌタナは
1年の半分を雪と氷に覆われ大きな産業が育たない。
そして氷に覆われた大地はその大地に眠る鉱石を採取する事を許さない。
ゆえに漁業が発展し、タナクアの導きにより生きる糧を得ることが出来るのだ。


タナクアの導き無しではこの町に住む者に幸は少なく貧しい暮らしが待つだけ。
なのに彼がなぜ自分の仕える神に対し不遜な態度を取るのかは彼にしか分からない事件があり
そしてタナクアがなぜこの不遜な男を見捨てないのか、
それもタナクアだけが知る彼の本質と資質。


「デコ様、支度が整いました・・・道中お気をつけて・・・」
手漕ぎのボートを桟橋に付けると見習い神官が恭しい挨拶をする。
遠目に見える帆船に乗り込む時間が来たらしい。

「んっ、留守は頼んだ、すまんが今回は帰るまでかなりかかりそうだ」
ボートに乗り込みながら神官に向かって一言告げる。

「何かまた御神託でもあったのでございますか?」
心配そうな視線をデコに投げかけ問う。

「ただの勘だ、神託の行き先も曖昧な表現だったからな、何か意味があるんだろう。」

今までの神託は、そう、町に必要な何かを司祭に伝えるいわば「お使い」のようなものだった。
が、今回は違う。




-------この大海、この大地、この大空、お前の望む「何か」を持ち帰るが良い-------






デコはタナクアに託された言葉を脳裏に刻み込み反芻すると「行って来る」とチヌタナの大地に向かって呟いた。



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2010/02/04 00:10 | Comments(0) | TrackBack() | ソロ
カットスロート・デッドメン 1/タオ(えんや)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PC:タオ
NPC:
場所:シカラグァ・サランガ氏族領・港湾都市ルプール
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その青年は一人街道を歩いていた。
ふらふらとどこか不安定で、ゆっくり歩いてるように見えて、そのくせ足が速い。
ただ歩いているはずなのにどう移動しているのかよくわからず、気持ち悪い。

…ただすれ違うだけなら、わずかな違和感だけしか感じないのだろうな。
茂みに身を潜め石弓の照準を合わせながら、狙撃手は思った。
青年の外見は男性にしては低めの背丈、なで肩の華奢な体躯で、その表情に浮かぶ柔和な微笑は、連続殺人犯として高額な賞金をかけられているとは信じがたいものだった。
だが狙撃手は、今なら信じる気になれた。

残虐性はみじんに感じ取れない。殺人を犯すような男かと問われれば今でも首を横に振るだろう。
ぱっと見は無害な小男にしか見えない。
しかし、明らかにあの男は異質だ。
観察し続けたから、その動きの異様さがわかる。
あんな動きを身につけた男が、まっとうな生活を送っているとは思えなかった。

だとしても関係ない。いくら動きが奇妙だろうが、矢が刺されば死ぬのが道理だ。
狙撃手は自分に言い聞かせると、静かに引き金を絞った。

石弓から放たれた矢は一直線に青年の背中に飛んでいき、
そして青年のすぐわきを通り、街道脇の木の幹に深々と突き刺さった。

狙撃手の腕が悪かったわけではない。
本来ならその狙撃手にとって決して外すはずのない距離だった。
しかし青年の異様な動きが目測を誤らせたのだ。

青年は振り返り、こちらを見た。

目が合う。発見された。
最初の一撃で仕留められれば楽だったのだが、こうなれば仕方ない。

街道脇から青年を取り囲むようにして、様々な武器を持った男達が飛び出してきた。

青年に動揺が見られないのは、気付いていたからか、それとも慣れているのか。


周囲を囲む男達は、筋骨隆々で、人相も険しく、柔和で華奢な青年と比べると、まるで熊と兎だ。
得物も、男達は剣やら斧やら槍やら凶悪そうなものを構えているが、青年は得物らしきものは何一つ持っていない。
どう見ても、殺人鬼を取り囲む賞金稼ぎではなく、哀れな獲物を捕らえようとしている山賊達の図だ。
実際、山賊と賞金稼ぎにそう差があるわけでもない。賞金稼ぎをしていた男が、一月後に犯罪者になっていたなんていうのはざらだ。
しかし彼らはまだ、法の側にいた。

一方、高額賞金首であるところの青年はというと、この状況においてなお、変わらず微笑みを浮かべており、今自分の置かれている状況を理解しているのか怪しいところであった。

もっとも、その青年がどう思っていようが賞金稼ぎ達には関係なかった。
手配書には『生死不問』と書かれている。
もとより生かして捉えるつもりはない。

男達が一斉に襲い掛かった。




数分後、狙撃手は賞金稼ぎとして長生きするための賢明な行動に出た。
つまり、勝てぬ相手には挑まない。
石弓を捨て必死に逃げる狙撃手を見送った後、青年-タオ・リウシェン-は足元に転がる死体を埋葬することにした。
死体を街道脇に運び込む時、死体の懐から一枚の手紙が落ちた。
タオはそれを懐にしまうと、簡単に死者を弔い、旅を再開した。



  *   *   *



港湾都市ルプール。
サランガ氏族領の中でも直轄領に隣接し、首都ティルフ擁する大陸最大の淡水湖と外洋に面するこの街は、湾の最奥に位置し、島嶼にも恵まれ、天然の良港として、かつ海路交易の中心地として栄えており、漁業を中心産業とするサランガ氏族領の都市の中では、少々変わった趣を持っていた。
遊牧商人でもあるコーレリアの民や、金属細工物を運び込むグルナラスの民、さらにはシカラグァの民などが入り混じり、活気と喧騒が町全体を包んでいた。

桟橋には入港した帆船から荷物が下ろされ、立ち並んだ船渠からは木を削り、組み込む音が聞こえる。

タオは視線を転じて外洋へと向けた。
目の前に広がる外洋の地平には、かつてライガールという国が存在した小大陸が見える。
ある日を境に、天変地異により、そこに住む人々ごと消え去り、抉り取られたような大地だけが残された、呪われた地だ。
呪いに怯え、今では漁師も小大陸の傍にはいかない。
その小大陸の周囲には幾つもの小島が存在していた。

このルプールへの出入りにはどうしたところで、あの小大陸との間を抜けなければならない。
そして、人が住み着くことのない名も無き小島の数々。

いつしかそこには無法者が住み着き、海賊が横行するようになった。
シカラグァの海軍が何度となく討伐を行い、その都度四散するも、ほとぼりが冷める頃に集まってくる。
この一帯は海賊地帯とも呼ばれ、日々多くの海賊が現れ消えていく。
国が常に守ってくれるわけではない。
したがって、商船は自衛のために腕利きの冒険者や賞金稼ぎを雇い入れるのが常であった。
…あるいは、ライバルの商船を襲う際の戦力としても。

タオが手に入れた手紙は、とある商船への傭兵ギルドからの紹介状であった。

あの時戦った男の内に、この紹介状で謳われているほどの戦歴を感じさせる技量の持ち主がいたか首を捻るところであったが、死合の結果とはいえ、どこぞの商船の護衛が欠けてしまうのも、はたまた護衛の依頼を受け、手ごろな戦士を推薦したのであろう傭兵ギルドの面目を潰すのも心苦しく、タオは彼の代わりに護衛を引き受けることを決意したのだ。
もとよりあてのある旅でもなく、船旅に心惹かれるものを感じたのも事実ではあるが。

あちこち訪ね歩き、途中路地裏に誘い込まれたり、刃物突きつけられたり、殺しちゃったりしながら、なんとか目当ての商人の屋敷にたどり着いたのは夕刻の頃になっていた。

紹介状を見せると、商人はそれととタオを、胡乱な表情で見比べた後、「貴方がレットシュタインの野盗を退治したねぇ」と呟いていたが、問われたわけでもなかったのでタオは沈黙を守った。
むろん、そんな名の土地の名すら知らない。
商人は訝しげにタオを見つめた後、「まぁいいでしょう。最近また海賊の活動が活発になっていると聞きます。護衛は一人でも多いほうがいい。」と一人納得した。

ニ日後、タオは甲板の上で潮風に吹かれていた。
甲板の上では忙しそうに屈強な水夫達が動き回り、タオの近くでは同じく護衛に雇われた数名がカード遊びにふけっている。

「お前、前はレットシュタインにいたんだって?」

頭上からの声に振り仰ぐと、禿頭の巨体の男が見下ろしていた。
腰には手斧を二本挿している。

「ずいぶんとでかいホラを吹いたもんだ。
 ソロバンはじいてるだけの奴らは釣書一つで騙せても、俺はそうはいかねぇぞ。
 お前みたいなチビがまともに戦えるわけがない。」

その時、不意に船が揺れ、禿頭の男はよろめいた。

「おっと。船旅はこれだから好きくねぇ。
 いいか、くれぐれも俺の足だけは引っ張るなよ。」

禿頭の男はそれだけ言い捨てると、タオから離れていった。

「どっちが足を引っ張ることやら。」

横合いから、タオに言葉が投げかけられた。
赤髪の長髪の青年が唇の片端を釣り上げてタオに笑いかけた。
赤みがかった褐色の肌はサランガかグルナラスの民のようだ。
長身痩躯だが鍛えられた体つきで、腰にはサーベルと先込め式単発銃が突っ込まれていた。

「あのおっさん、よろめいてやがったぜ。
 あんたはぐらつきもしなかったのにな。」

赤髪の青年はタオの傍に歩み寄った。

「俺はソムってんだ。」

「私はタオと言います。」

タオは差し出された手を握った。

「よろしくな、タオ。
 さてまぁ、俺はあんたの腕前が見た目どおりだとは思っちゃいねぇが、
 レットシュタインは嘘だよなぁ。
 鬼みたいに強ぇ女と組んでたっていう男も華奢とは聞いてるが、
 …カフール人じゃなかったハズだ。
 というより、あんた見たことあんだよなぁ。どこぞの手配書で。」

ソムはタオの顔を覗き込む。

「まぁいいや。
 あんたが何者だろうが、一緒に戦ってくれるならそれでいい。
 沖の上には法はないしな。
 船の上では仲良くやろうぜ。」

ソムはにかっと笑うと、あらためて船の上を見渡した。

「しかしまぁ、今回の護衛はバラエティに富んでるね。
 能無し筋肉ダルマから名うての腕っこきまで、よくもまぁ集めたもんだ。
 ほら、あそこにいるのは"決闘者"バラントレイ伯に"魔弾の"バンドレア。
 片っ端から引っ張ってきた感じだよねぇ。」

「それほど海賊は脅威なのですか。」

「まぁね。最近じゃ5隻に1隻は被害を受ける。
 今、元気なのは残虐無比の"義足の"コシンガと"伊達男"アーサーの二つだな。
 "義足"は抵抗すれば皆殺しらしいし、"伊達男"も戦闘は勇猛苛烈らしい。
 でも今最も怖いのは、霧から現れる謎の海賊団だ。
 船を残して積荷も人も全て奪い去る。
 やつらに捕らえられて帰ってきた奴はいねぇ。
 ニコラスのとこの船には"黒剣の"レイブンが乗り込んでたらしいが、
 結局は奴も他の連中と一緒に消えた。」

「なるほど。」

タオは頷くと、船首側の甲板にいる人々に目を向けた。
そこで沖を眺めている人々は、水夫とも、ここにたむろっている傭兵達とも雰囲気が異なっていた。
ソムはタオの視線に気付き、教えた。 

「あぁ、荷物運ぶついでに客も運ぶんだとよ。
 商人様はそつがないねぇ。
 …吟遊詩人まで乗せてんのか。」

タオの目も、なんとはなしにその吟遊詩人を捉えていた。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2010/02/04 00:28 | Comments(0) | TrackBack() | ○カットスロートデッドメン
羽衣の剣 1/ヒュー(ほうき拳)
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PC:デコ、ヒュー
NPC:イーネス
場所:コタナ村
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 辺りは雪とそれを被った木々が並んでいる。葉が落ち、茶色い地肌を晒している姿だけが、森であったことの証明だろう。雪はなかなか深いようで、通るものがいない道はすっかり白くなっていた。
 その中に異物がぽつぽつとあった。
 赤い色がぽとぽとと落とし物のように雪を色づけ、その先には毛皮の塊が転がっている。
 毛皮の塊は荒い息をはき出した。森に入った時、気をつけなければならないことはいくつかある。まず、野生動物に会うこと。もう一つは山賊に会うこと。そして、猟師に撃たれることだ。
 毛皮の中身、ヒュー・ウォアルは腹に突き刺さった矢を見ながらそう思った。他に左腕に一本、右足に一本刺さっているが見ることはできない。毒でも塗ってあったのだろう。全身に痺れを感じる。

「やっとしとめた! この人食い熊め!」

 若い女の声がする。怒りの声を上げながらこちらに向かってくる。女の猟師なんて珍しい。青灰色の瞳で虚ろに眺めながめた。警戒は解いていないようで、動けばもっと撃ちこまれそうだ。あと十歩程度の距離に近づいた女が驚きの声をあげる。傷に響いたような気がする。しかし熊か、ひさびさに食べたいな。場違いな方向に意識は進んでから、消えた。


▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽


 矢ガモは聞いたことがある。だが、矢人間というも珍しい。アローマンっていうとちょっと格好いいな。文法合ってるかは知らんけど。そんなどうでもいいことを考えながら、居合わせた司祭は治療を終えた。呪文を使うほどでもない、比較的軽い傷だ。若いしほっとけば治るだろう。毒もそう危険なものではない。
 不安げな様子で見ている少女の方が気になる。勝ち気な娘だったが涙目でしおらしくしてるのは違和感を覚える。彼女の本質は泣き顔ではないだろうに。

「デコ司祭……」

 妙に細い声が辺りがもれた。石造りの壁に反響し、不安を煽る。ここも雪に負けないような家ではあるのだが、何分冷たい。日が落ちかけているためだけではないだろう。人の営みがこの家ではなされていないためだ。後が合っても最低限のもので、一月もすれば廃屋のようになってしまうだろう。

「安心しな、イーネス、死んだりはしない」

 チヌタナから少し南に位置する小村コタナに寄った途端コレだ。いくらなんでも唐突すぎる。

「ん、少し寒いな、ちょっと薪を足してきてくれ」

 分かった、とも言わず少女、イーネス・ビヨルンはばたばたと薪を足す。ここは彼女の家のはずなのだが、なんだか家主になったような気分だ。

 薪が熱を帯び燃えていく姿を確認するとイーネスはデコをじっと見た。

「今夜の分も必要だから、少し割ってきてくれ。頼むよ」

 イーネスは頷くと外へだっと出た。きっとなにかしている方が落ち着くだろう。デコは長く、息を吐き出した。

「さてさて、こいつはどこの誰なんだろうねぇ」

 無精髭をいじりながらベッドに寝ている彼を見る。風貌はこの辺りの人間に近いが、潮風の匂いはしない。どちらかと言えば山の人間なのだろう。治療のため外したものを見れば傭兵か冒険者か。野盗という選択肢もあるが、徒党も組まずこんな所に来る野盗はそうそういない。
 そうしているうちに、机の方から妙な圧迫感を感じた。患者が持っていた剣に妙に意識が引っ張れている。ちょうど神託を聞いた時のようだが、暖かみを感じない。硬質な意識が剣にはあるようだった。

 鞘に収まっている剣を眺めていると、いつのまにか患者は目を開いてこちらを見ていた。灰色がかかった短髪を少し掻いた後、ゆるやかに体を起こす。目は少しぼうっと焦点があっていないようだ。

「おはよう、災難だったな」
「ええ」

 ふらふらとした意識を立て直すように彼は口を結ぶ。冷たい印象を受ける顔で、氷像を思わせるものだ。無暗にしゃべられない人間らしく、それきり口をつぐんだ。

「まあ、この時期に来たのを災難だと思ってくれ。流氷のせいで船が出せないわ、冬眠できない熊が出て人が襲われるわで。気が立ってる。ま、冬の旅っていうのはやらない方がいい。下手すりゃ助からなかったんだ。傷はともかくあのままじゃ凍死だったね。村の連中だって山ん中歩きたくはないしな。んで俺が君のことをひっぱてきたわけだ」

 しゃべらない患者の穴埋めをするかのように、口を巡らせる。無精髭が動くのが妙に患者の目に焼き付いた。

「助けた、ということは。あなたが、彼女の父親か?」

 デコは思わず椅子から転げ落ちそうになる。まあ、そういう解釈もないこともないだろう。

「いやいや違う違う。デコ、デコ-バルディッシュつー隣の村の男だ。一応、タナクアの司祭をやっている。しかしまあ、旅だった早々コレだ。まったく先が思いやられる。陸に上がったマグロの加護なんざ、役に立たない。ったく、タナクアって奴は……」

 少々リアクションに戸惑ったように、患者はほんの少し首を傾けた。

「タナクア? 知らないな。小神か? それともイムヌスの天使どもか?」
「んっ、ちっこい方だ」

 どうでもよさげな返し言葉にさらに戸惑った様子である。

「バルデッシュ司祭。オレも神官だが、その答え方は良くない。祟る」
「意味が変わる訳じゃないさ。そして、事実だって変わらない。で、君の名前は」

 肩をすくめて対応する司祭に、むっとしながらも患者は口を開いた。

「ヒュー、ヒュー・ウォアル。剣の神に仕えている」

 小さな窓に強い風が打ちつけられた。地吹雪がゴウゴウと吹き、窓を覆う。

「こりゃ、酷いな」

 いくつか薪を持ってイーネスが入って来るときにはとうとう上からも雪が降り始めたようだ。

「あ、あんた、起きたのか」
「ああ」

 寒さで顔を真っ赤にしながら、イーネスは薪を暖炉近くに並べる。
 本当なら固めた藁や糞などが欲しいところだが、なかなか買うとなると高く付く。鯨が捕れなかった年はどうも寒くてたまらない。そんな日常のことで気を紛らわせながら、イーネスは小さな声で謝罪した。

「ごめん。悪かったよ、アタシが焦ったばっかりにさ」
「いいや。こっちが油断してたせいだ。あのまま、君の獲物に会っていたら死んでいたかもしれないし」

 ヒューは少し気恥ずかしそうに答えた。攻められると思っていたイーネスは気が抜けたようだ。人を殺しかけたのだ。狩りの動物でもない、人間を。その圧力がすっぽ抜けたためか、床によろよろとへたり込んだ。

 デコがそちらに寄って行く。ヒューはなにも言えず、ベッドから退こうかどうかと思考を回した。
 その時、ゴウッという音と共に、木で出来た窓がビキビキと揺れた。冬が襲って来た。ヒューはそう呟くと、雪避けの呪い文字小さく手のひらに書いた。


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2010/02/04 00:32 | Comments(0) | TrackBack() | ○羽衣の剣

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