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2025/11/14 15:39 |
Get up! 11/コズン(ほうき拳)
場所 :資料室 / 演習場
PC :フェイ / コズン
NPC:レベッカ / -

 エドランスへ戻ってからというもの、フェイとコズンの接点は少なくなっていた。会って情報交換でもすればいいのに、わざわざレベッカを通してた。

「あんたら、ほんとめんどさいわぁ」

 いい加減砕けてきた様子でレベッカはフェイに愚痴った。机の上に立ちながら、頭を人差し指で支えるようなポーズで必死にアピールをしている。
 ここは学園の資料室。図書館で恒常的に使う資料でもなく、かといって保存目的で書庫にしまうにも微妙な資料を置く場所だ。フリーで入れるのは修士取得したものや教授陣、レベッカのような実績のあるゲストぐらいだろうか。まあ、コズンに手伝わせるのは確実に不可能だった。そもそも彼の生きていた文化圏では自分の名前さえ書ければ8割方支障がなかった。他方面で冒険するに当たって覚えた文字も日用的な言葉や罵り言葉が中心で、書物を読むには適していない。

 こちらに籠もっているとはいえ、接点を作ろうとしない。いや、レベッカ以外を接点にしていないと言うのが正確か。これはまずい状況だ。なにかあと一つ二つ潤滑油がないとこのパーティは回らない。レベッカ自身が引っ張っていくという手もあるのだが、羽妖精の脆い体ではいつ死ぬか分からない。なんといっても自分が指揮を取ったり、気を遣ったりだのは彼女には性格上向いてない。

「うーぐー、このギザギザハートどもめ」

 フェイはふざけた愚痴には答えずに、座ったまま黙々と事件の資料を見返していた。そのページは丁度、フェイ自身が襲われたあの事件だった。これを見ようとして居たわけではないが、最新の資料から順々に読んでいくうちに当たってしまったのだ。
 思わず資料を伏せた。そしてレベッカに向き直るとフェイは口を開いた。

「アニスとシャルナはどうなったんです」
「今、ディガー先生が知り合いに預けているってさ。あのほら、もふもふのウサギ」
「なるほど。彼女なら気が利くし、耳もいい」
「過剰な心配だと思うけどねー、冒険者の巣窟みたいな街で動く犯罪者はいないでしょ」

 エドランス付近の冒険者なら教育も基本的に行き届いている。クーロンのような地域の冒険者とは全く違う、自警団を発展させたようなイメージをレベッカは持っていた。都市全体で支えている辺り不思議な場所だ。もともと住んでいた奥地や他の地域では上等なごろつきや休業中の山賊といった所だったのに。随分変わるなぁ、とレベッカは天を仰いだ。
 そして思い出したようにフェイに視線を投げる。
 妙に寒気がする視線だった。いわゆる出歯亀ややり手婆などの持つ特有の瞳。ゴッシプ好きの目だ。

「そーいやあ、さあ。アニスちゃん会いたがってたわよー」
「情報でもあったんですか」

 こちらに着くまで終始、体調の悪かった彼女からは情報を聞き出せなかったのだ。
 追加情報があるとは思えないが、あるならありがたい。フェイはそう思って耳を傾ける。

「いや、そーじゃなくて。ごく個人的にね。
 アンタは一応、同族かそれ近いものなんだし、あと今回のヒーローだしね
 少なくとも彼女にとっては、さぁ」

 すごく楽しそうに、にやにやと視線を向ける。
 これを待っていたと言わんばかりの笑みだ。

「あ、ああ」

 そういうのはエルガーの役回りだった。自分に回ってくるとは。

「ふふふん。自分の役回りじゃないと思って、戸惑っておる戸惑っておる」

 フェイが困ったような顔をすると羽妖精は満足したように笑った。
 目標が果たせたとばかり、目の前でくるりと一回転する。
 すると、また表情が変わっている。真剣な、母親のような目だった。
 ころころ変わる態度は妖精族特有なんだろうか、フェイはそんな疑問を浮かべた。

「彼女にも支えが必要だと思うの、安全と安心は違うからね。
 シャルナさんだけじゃきっと安心させるのは無理。
 血の近いあなたしかできないことよ。
 まあ別に依頼ってわけでもないし、気が向いたらでいいけどねー」

 真剣な態度はなかなか持たないようで、後半は手をひらひらさせるレベッカ。
 やはり戸惑いながらフェイは頷くと、ふと湧いた疑問を口にした。

「そういえば、エルガー達は?」

 今回の件は難易度がこの急造チームでは難易度が高すぎる。クラッドもそう判断してエルガー達を呼び戻している所だった。ディガー教室で残っているのは魔法使いの少女フェルミとクラッド・ディガー本人ぐらいだ。

「微妙だって。場所が悪くてこっちに着くまでまだかかりそう。
 まあ代わりにスカウト達の情報網に掛け合ってみるってさ」

 情報収集は手詰まりだったのでそれはありがたかった。もし一貫性があればとうの昔にだれか気付いてただろう。フェイの父親が襲われた一見はかなりの事件のはずだし、一度は誰かがきちんと調べたはずだ。それでも情報が出てこないということは、巧妙に隠されて行われたか、内部に情報を隠蔽、操作するものがいるということになる。
 おそらく前者だろうと、フェイはアカデミーへの信頼から判断し、こうして資料を再び見返しているのである。

「さて、んじゃ、そろそろコズンのとこにいってくるわー。まあ、情報なんて集まってないでしょうけどねぇー」

 ホコリをを払うような動作の後、飛び上がるレベッカ。

「でしょうね」

 まったく期待はせずにフェイは答える。
 羽妖精はその様子に意味ありげに笑った。



▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


 アカデミーの裏側、少し高く登坂などの訓練のため岩がごろごろと置いてある場所。
 彼はそこにいた。もっとも言われなければ中身のことなどわからないだろう。
 チェインメイルを鉄板で補強した鎧、バンディットメイルを纏っていた。頭部にはきっちりと兜をかぶり、フェイスガードも閉じている。手にあるのは長柄の大斧ですべて鉄で出来ていた。籠手や具足も厚い鉄板へと変えられている。
 斧をゆっくりと振る度に筋肉がきしむ。全身が重く息苦しい。
 そのくせ斧はぶれて、苦労に見合わない気がしてならない。

 それでもコズンは斧を振る。

 人間は急に強く離れない。心の問題や技術のコツなら、急に強くなったり、コツを掴んだりすることもたまにはあるだろう。だが、身体的な問題は積み重ねていくしかない。その両方を解決する手段として取ったのが、この方法だった。
 昼間はひたすら斧を振り、夜は酒場を回る。それを繰り返す、肉体にとことん負荷をかけていくトレーニング。
 
 この重装備はコズンの報酬とレベッカからの借金で無理矢理買ったものだ。焦燥感と借りを作ったという感覚が自分を押す。その確信があってしたことだった。
 これだけの金がが在ればクーロン式銃のデッドコピーでも買った方が戦力としては上がっただろう。だが、それをしなかったのには彼にとって重要な理由があった。

 それは自分は弱くなっているという確信。そのことから立ち直るためだった。

 もしあの時、気功使いに立ち向かっていたらどうだろう。昔なら、万の一つの可能性や奇策などを使ってなんとしてでも、勝ちに行っただろう。コズンにとっての強みはどうやっても勝とうとする、意地の張り合いでの強さだ。自分でも、他者の評価でもそうだったはず。勝ち汚い、卑怯だ。そう言われようともなんとしてでも勝つ。勝たなければ次はない。またも誰かが死ぬ。
 そう言った思想が頭の中に染みついていたはずなのに。
 実力差から、引いてしまい、フェイに任せた。冒険者としては正しい判断だ。だが、自分としては下の下の判断だ。それはコズンという男ではない。無謀と勇気は違うのは学習しているが、今、自分に必要なのは無謀さだ。

 フェイはまだ、その無謀さを持っていた。幼い頃からの状況や再生能力によってさらにそれを推し進めている。彼から見れば同じタイプの戦い方をしていながら、コズンを優に超していたのだ。

 それが悔しい。
 
 ドラゴンは元からドラゴンであり、人間を歯牙にかけない強さを持つ。それと同じようにそれぞれの異種族は人間が到達できないレベルのなにかをそれぞれ持っている。当たり前のことだが追い抜けない。オーガやトロルに力比べして勝てる人間がいるだろうか、空を飛ぶワイバーンと同じ速度で移動できる人間がいるだろうか。

 いない。

 けれど勝つことはできる。小細工を使えばオーガに腕相撲で勝つこともできる。ワイバーンに追いつけなければ、クロスボウで撃ち落としてしまえばいい。自分でもそういったものとは何度も戦い勝ってきた。逆にいえばフェイとていつか負けるかもしれない。
 その時、自分は奴になんと言われるだろうか。おそらく逃げろだとか、しょうもないことをいうだろう。
 それが許せない。逃げ出しそうな自分も、そういう態度を取るフェイ・ロウも。

 その内にそう言った思考が疲労のため飛んでいく。だんだんと斧のブレが収まり、一振り一振りが鋭くなっていく。
 コズンはそれを意識もせず、陽が落ちるまで鍛錬は止めなかった。


――――――――――――――――
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2010/01/30 00:29 | Comments(0) | TrackBack() | ○Get up!!
ファランクス・ナイト・ショウ  16/ヒルデ(みる)
登場:ヒルデ
場所:ガルドゼンド国内
------------------------------------------------------------------------


 岩場の道を、深い針葉樹の森を右に見ながら引き返していく。「あの森で冬を
越せる人間はいない」というクオドの言葉通り、鬱蒼とした森の中から生き物の
気配は感じられず、まるで光すらをも呑み込む深い闇が蟠っているかのような印
象を周囲に与えている。一瞬、自分がまるでここではないどこかにいるような錯
覚を覚えた。そう、あれは――思考を巡らせ、最初にこの道を辿ったときからず
っと感じている既視感の奥にあるものを確かめる。「ははっ」小さな笑いが零れ
た。生き物を拒む針葉樹の森、荒涼とした風景、そして厳しい冬が続く気候。な
んの事はない、自らも気付かぬうちに連想していたのは、故郷の姿だった。数を
減じ、押し込められた一族が再起を願いながら息を潜めて住まう場所。


「戦乙女ともあろうものが……郷愁の念に囚われるとはな」

 自嘲めいた呟き。言葉を返すように、栗毛の馬がぶるるると喉を鳴らす。首筋
を撫でながら「なんでもない、気にするな」と語りかけた。納得したのかそもそ
も気にしてもいないのか、何も言わず愛馬が視線を上げる。気がつけば、なだら
かな坂道を越えていた。釣られて顔を上げると古い石に守られた村が見える。目
的地はもうすぐだ。


 館に戻ると、再び執務室へと通された。前にも感じたが、この部屋はどうにも
空気が冷たく感じる。目の前の人物からそれほどの威圧感が放たれているという
わけでもないのだろうが……そこまで考えたところで、自分に向けられた視線に
気付く。やはり最近の私は少しおかしい。愚にもつかない事を考える前に、やる
べき事をやらなくては。

            ―= ◇ = ◆ = ◇ = ◆ = ◇ =―

 盗賊団と思しき連中を倒した事、やつらから聞き出した話、後始末の為に人手
が必要な事。一通りの説明を終える頃には辺りは夕闇に包まれていた。そして、
私は今当然のように割り当てられた客室にいる。

「何をしているのだろうな、私は……」

 思わず零れ落ちた呟き。部屋の外では忙しなく人が行き来している気配が感じ
られる。この地もティグラハット軍の侵攻と無関係ではない、その準備におおわ
らわなのだろう。そう、彼らは己が成すべき事をしっかりと見据え、その為に行
動しているのだ。だというのに私は……

「ふぅ……」

 溜め息をこぼす自分に嫌気がさす。昔の私はこうではなかった。戦神の娘とし
ての使命のみを考え、その為だけに行動してきたというのに。いつからこうなっ
た?いつから――


「おい、聞いたか?アナウアがまたありえない速度で落ちて、ブライトクロイツ
もヤバいんじゃないかってさ」

「聞いた聞いた。あそこが抜かれたら次はここだろ?勘弁して欲しいよな……」

「子爵様が冒険者の知り合いとかにも声掛けてるらしいぜ。不思議な方面にコネ
あるよなあの人……」

「ハイデンヴァイルの方でもいろいろ準備してるらしい。俺たちも覚悟をきめな
いと……」

 物思いに耽る私の耳に、扉の外を行き交う兵士たちの会話が入ってきた。戦。
そうだ、戦になれば自然と有望な傑物が集まろうというものだ。例えば、ティグ
ラハット軍には星墜としをも成し遂げる術者がいる。あれは、それこそ私の故郷
のように古くからの伝承を正しく遺し、なおかつ相応の力を以って臨まないと下
手をすれば身を滅ぼしかねない呪法。使いこなすには知識、力、そしてそれを自
信を持って確実に行うだけの精神が求められる。それほどの術者が付いているの
だ。今から下手にブライトクロイツを目指すよりは、ここで待つ方が確実かもし
れない。そうだ、それならば私も目的の為に行動している事になる……

 そんな自分への言い訳めいた事を考えながら、明日には子爵殿にその事を話し
に行こうと決意し、私はまどろみの中へと落ちていった。


            ―= ◇ = ◆ = ◇ = ◆ = ◇ =―

――ガルドゼンド領、アナウア砦近郊、ティグラハット軍陣営――

「ふぇふぇふぇ、次はどの術を使ったもんかのぅ……」

 戦利品の確認や負傷者の確認や部隊の再編成などで慌しく人が行き交う中、専
用に設えられた天幕の中央に置かれた机の上。そこには、どれも一目みて古いも
のだと分かる巻物が四つ、広げられている。

「これがいいかな?いやいや、こっちのも捨てがたい……」

 そんな独り言を漏らしながら、楽しそうに巻物を取っては眺め、取って眺めし
ている姿は、まるで次はどの玩具で遊ぼうか悩んでいる子供のよう――というよ
りも、子供そのものと言ってもあながち間違いではないだろう。老人にとって、
次に使う儀式呪文の選択は、『それがどれほど有効か』ではなく『それを使った
結果がどれだけ楽しめるのか』によってなされるべきものなのだから。

「楽しそうだな」

 突如背後から聞こえてきた声に、老魔導師は一瞬動きを止め後ろに向き直る。
いつの間にやらそこに立っていたのは、艶のない黒い甲冑を纏った一人の女。

「おお……きとったのか。相変わらず、見事な術じゃのう」

 女の姿を確認すると、老魔導師は卑屈な笑みを浮かべ、賞賛の声をあげた。喩
え国王が相手だろうと傲岸不遜に振舞おうかという彼だが、この女性にだけは勝
手が違うらしい。歓待の言葉を述べ、椅子を勧める老魔導師に、しかし女はどこ
までも冷淡だった。

「いいか。戦場にするのなら、レットシュタインだ。あそこを取り巻く環境はな
かなかに面白い。狂王の部隊は、もうすぐの所まで来ている――間に合わせろ」

 氷の塊が喋ったらこのような感じになるのだろうかと、そう思わせるような声
で必要な事を告げるとと、女は来た時と同じように音もなく影の中へと消えてい
った。残された静寂が、反論や拒否など認めないという彼女の意志を表している。

 いつもどおりと言えばいつもどおりの様子に、老魔術師は軽く肩を竦めて……
そして、机の上に広げた巻物のうちからふたつを手に取った。

「間に合わせろ、か。ならば、間に合わせるとするかのう。こいつを使って、な」

 そう言ってひとしきりふぇっふぇっふぇと笑うと、老魔導師はゆっくりと己の
テントを後にした。指揮官に、必要な準備をさせるために。

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2010/01/30 00:54 | Comments(0) | TrackBack() | ○ファランクスナイトショウ
神々の墓標 ~カフール国奇譚~ 12/カイ(マリムラ)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PC:カイ ヘクセ
NPC:アティア
場所:カフール国、スーリン僧院
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 アティアを背負い山から下りたカイ達を迎えたのは、武装した僧兵の一団だった。しかも大半は座り込み、一部は横になり、さらに一部は嘔吐するという惨状だ。
「……ヘクセ」
「ほら、無用な被害は避けたいじゃないかw」
 どうやら彼らの足止めをしたのは意図的なものであったらしい。
「解け、今すぐ」
「まあまあ、彼等には余韻が残っているだけだからね、じきに回復するだろう。
 それよりアティアを運ぶのが先じゃないかな?」
 アティアの表情は随分と落ち着いていたが、確かに静かな所へ運ぶ方が先かもしれない。
 カイは僧兵団の頭と思われる男に声をかけた。
「すべては終わった。霊廟前に異形の亡骸があるはずだ。
 ……亡くなった仲間たちとともにとは言わない。手厚く葬ってやってくれないか」
「なんだ……と?」
 顔色が悪いながらも気丈に立っていた男は、信じられないというような顔をしてカイを見上げた。
「敵であり仇であったかもしれないが、一方で悲しい被害者だ。切り刻むのは大僧正も望んではいまい」
「だが……」
「頼む」
 カイは静かに頭を垂れた。

「お人よし」
「ほっとけ」
 僧兵の間を抜けながらヘクセは笑う。カイは若干眉根を寄せると苦言を呈した。
「皆の気がたっている。ここで笑うな」
「ふうん、そういう気遣いも出来る子なんだ。えらいえらい♪」
「……」
 何を言っても無駄だと思ったのか、カイは黙々と歩く。ヘクセも気にした様子はなくついていく。
 僧兵に声を聞かれなくなるまで離れたころ、カイは疑問を口にした。
「俺の中に入れたおまえの欠片はどうするつもりだ」
 カイは前を向いたまま、ヘクセに目も向けない。そのことにヘクセは苦笑した。
「ほっとけば、じき消える。
 人は言葉を交わし、響き合って心を変化させることもあるだろ?
 あれと同じだ。
 お前の中の私の"言葉"は、お前に影響を与えるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
 どちらにせよ、お前の中で消化され、おまえ自身のものに変わるだろう。
 そういうことだ」
 ヘクセがにいっと笑う。カイはぽつりと呟いた。
「正直、おまえはアティアを見届けることなく去っていくと思ってたよ」
「まあそれでもよかったんだけどさー、ほら、何か余韻を残すのも悪くないだろ?」
 今度はカイが苦笑する番だった。
「探しもの、見つかってよかったな」
「ああ、あれは得難い体験だった。思い出すだけで震えてくるね。それに……」
 ヘクセが天を仰ぐ。
「なんとなくわかったんだ。ラスカフュールがその後、力を使わなかった訳」
「へえ」
「カフール錬気術は、人を超える業などではなかったんだ。
 人のありようを受け入れ、自然のありようも受け入れる業だったんだなぁ。
 ラスカフュールは人のまま、生きて、死んだんだ。
 必要もないのに力を使うわけもない。
 それが彼にとって一番あたりまえのことだったんだ。
 …すごいよなぁ。
 不死にすら至れる境地に立ちながら、それを手放すなんて…」

 それからしばらく無言で歩いた。この数日がとても濃い時間だったように感じていた。
 カイがアティアを奥の院に横たえると、ヘクセはアティアを軽く撫で立ち上がった。
「行くのか」
「頃合いだろう?」
 そして大きく伸びをする。
「カイ。人生は短い。そして世界は遥かに広大だ。
 君が踏み出した"武"への一歩。それを極めるだけでも、時間は足らんだろう。
 なら、やるべきことを探して足踏みするのはもうおしまいにしてはどうだ?
 やるべきことが解らねば、やりたいことをやってみたまえ。
 踏み出せば見えてくる世界もあるさ。
 水のように流れ続けろ。変わることを怖れるな。
 心を"凝り"にするなよ」
 ヘクセの表情は晴れ晴れとしていた。カイも止める気はなかった。
 もう会うことはないかもしれない。それでもお互いさよならは言わなかった。



 カイは僧院での後始末をそこそこに少ない荷物を纏めていた。自分は客だ。後はここにいる者たちで乗り越えなければいけない問題だろう。
 アティアは目覚めた後、大僧正が亡くなったことには号泣したが、ヘクセのことでは泣かなかった。
 もう大丈夫だ。淋しそうに見上げるアティアの頭を軽く撫でた。
「おにいちゃん、ずっとおともだちだよ」
「……ああ、そうだな」
「ヘクセもだよ」
「ああ、知ってるよ」
 偶然出会って触れ合った二人が、響きあって、少しずつ変化しながら、また互いの道を歩いていく。
 それを自然に受け入れられる自分は、何か変わったのだろうか。
「結局ヘクセは何者だったんだろうな」
「何言ってるの、ヘクセはヘクセ、だよ!」
 アティアに笑って見送られ、カイは自分の道へと足を踏み出す。

 目指す先にあるものは、首都ケルン。


                   fin.

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2010/01/30 00:56 | Comments(0) | TrackBack() | ●神々の墓標~カフール国奇譚~
ファランクス・ナイト・ショウ  17/クオド(小林)
登場:クオド, ヒルデ
場所:ガルドゼンド国内
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 朝方、客人があった。三日も前に先触れがあったが、忙しさで忘れていた。
 幸い主人と異なり記憶力と準備のよい使用人たちが出迎え、近状や昔話でヴィオ
ラがそこそこに身形を整える時間を稼いでくれた。ヴィオラが人々の集る広間へ入
ると、客人は火の入った暖炉の傍の椅子に腰掛け、兄と談笑していた。こういう時
ばかりは兄の要領のよさに感謝せざるを得ない。
 ヴィオラは主人として最低限の挨拶をした後、当たり障りなく微笑んで言った。

「お久し振りです、叔父上」

 恰幅のよい、好々爺たる外見の客人は、親しげに笑い返した。

「おお、久しぶりだ。
 相変わらず景気の悪い顔をしてるな、地獄で母親が呼んでるんじゃないか?」

「今日はご令嬢は一緒ではないのですか?
 彼女の元気と、体重の一部でも分けていただきたいものですが」

 無言で笑い合う。同点、と胸の内で呟くが、不毛だということも承知していた。
 愉快そうな兄を横目で睨み、客人に用件を問う。とはいえそんなものは決まり
きっていて、今度の戦に対する一族の態度をそろそろ定めねばならないということ
だった。

「大儀を表明せぬまま兵を整えては、周辺の貴族たちに不信感を持たれるぞ」

「ああ、そうでしたね。それに関しては――二、三日中にでも。
 こちらで少しばかり問題が起こっておりまして」

 問題? と客人は訊いた。ヴィオラは、せっかく造反組から誘いの手紙が来たの
に、その密使が領内でならず者に襲われて死んでしまった、と笑った。客人よりも、
むしろ兄が驚いた顔をした。

「どうするんだ」

 客人は目を細め、血族特有の、冴えない灰色の髪を掻いた。

「どちらでも」

 ヴィオラは投げ槍に答えた。個人的には嫌いだが、警戒しすぎても仕方がない相
手だ。血にしがみついている人種なので、家の存続の為には何でもやる。家長でな
いのが残念だ、と思ったが、言えば嫌味にしかならないので別のことを言う。

「……正直、関わりたくないですがね」

「無理だろう。ティグラハットが国内に侵入してきた以上、ここは守りの要になる。

 門を閉ざせば両軍から攻められるぞ。どちらかを選ばなければならない」

「宣戦布告として星落としを見せ付けたティグラハットか、それとも狂王陛下の殲
滅部隊か?」ヴィオラは鼻で笑った。「どちらに門を開いても食い荒らされます。
両軍ともこんな土地、占領地の一つとしか見ないでしょうから」

「だが、血は残る」

 客人の言葉にヴィオラは首を傾げた。一瞬の後で意味を理解し、ああ、と笑う。
民を見捨てても血を絶やすなと、つまりはそういうことだ。それも一つの価値観で
はあろうが。

 おい、と兄が声を上げた。普段は空気を読まない癖に、調和を取るのは非常に得
意だ。ヴィオラも場を荒立てるつもりはなかった。そしてその面で叔父と対立する
ことはないだろうとも思っていた。彼は彼の兵を、家のために使うだろう。その未
来を想像してみたが、特にこの場で諍いを起こさなければいけない理由は見当たら
ない。

「勿論、滅ぼすつもりはありません」

「――それで、死んだ密使とやらは、どうしたんだ?」

「遺体を整えて聖堂に。殺害した一団は昨日、壊滅させ、生き残りの尋問も終えま
した。彼らは、やったのは自分達ではないと言っていますが」

「ほう」

「黒い軍馬の、双剣の女がやったと」

 客人は沈黙して、嘆息した。

「……俺は、お前のその性癖がなければ、もう少し友好的に接してやってもいいと
思ってるぞ。その造反組とやらにつくつもりはないということだな?」

「首魁はともかく他の面子が悪い。仮に王を見限るにしろ、あんな烏合の衆に参加
するくらいなら単独でティグラハットに降った方がまだいいくらいです。事故のふ
りをして時間を稼げるならよし、そうでなくとも、彼らが本当にここへ攻め入るに
は、彼らの予想以上に深く侵攻したティグラハットが邪魔です」

 しかしこの地が戦場になるならば、血が流れる前に開城してしまった方がいいと
いう気はしていた。辺境の、権限を剥奪され繁栄から切り離された小貴族が、まと
もな戦などできるはずがない。卑怯者の謗りは受けようが。

「血族会議は」

「無視してませんよ、招集をかけるたびに席次で半月もめるのはどこの馬鹿共です
か」

 ここで話していても仕方がないことなので、と話題を変える。
 新しく騎士を叙任しましたと告げると、客人は、知らせは受けていると頷いた。
一族には失踪者が多いので、出自をでっち上げるには困らなかった。呼ばれて顔を
出したクオドは相変わらず困ったような顔で偽りの紹介を聞き、少し沈黙してから
「よろしくお願いします」と頭を下げた。

 客人はどういうわけかクオドを気に入ったようで、椅子から立ち上がって彼の肩
を抱き、本人が知るはずもない架空の人物の昔話をしながら、背を押して広間を出
て行ってしまった。ヴィオラは古い記憶を辿り、叔父に男色の気はないことを思い
出したので、放っておくことにした。
 歩き回られたところで、見られて困るものは何もない――いや、祖母の遺品をだ
いぶ売り払ったか。気づかれなければいいが。



         + ○ + ○ + ● + ○ + ○ +



 客人は昔話をしたがったが、クオドが会話を合せられなくてもあまり気にしな
かった。古い話だから覚えていなくても仕方がないだろうと、朗らかに笑う様はク
オドの警戒を解かせた。書類上は自分の母親だという女は、この客人の従妹なのだ
そうだ。随分と歳が離れており、娘の年頃に旅の冒険者と駆落同然にいなくなった
というから、二十年以上、客人とは会っていない。

 幼いながらも信仰に厚い娘だった、と客人は言った。クオドは「そうですか」と
頷いた。
 客人は、砦の外の森にある聖堂の話をした。「あの娘は毎日あそこへ通っていた。
代が替わってあの聖堂へ行く者はもういないが、あそこは一族を知る上で重要な場
所だ」と、何も知らない新参者の私生児にものを教える口ぶりで言ったが、クオド
はわずかに違和感を覚えた。

 クオドは曖昧に頷いてその場を持たせた。あの聖堂にあるのは忌わしい記憶だけ
だ。
 客人はふと思い出したという様子で、蒼い石の嵌った聖印を取り出した。「あの
子が昔、持っていたものだ。息子が来ると聞いたから持ってきた」クオドは殆ど無
理やり渡されたそれを受け取って、反応に困りながらも辛うじて「ありがとうござ
います」とだけ答えた。

 客人は昼前に辞した。玄関で見送る時、耳の奥で女の声を聞いた。くすくすと、
楽しそうな笑い声を。
“あの森の道は、閉ざされて何百年になるのかしら”

 見下ろした手の中で、聖印の蒼い石が艶やかに光を跳ね返した。



「ヒルデさん」

 と、扉を叩く。現れた戦乙女は、若干、不機嫌そうに見えた。客人がくるから部
屋から出るなと言い含められた彼女は結局、午前を部屋で過ごした。食事は用意さ
れたはずだが、押し込められた一室で、独りで食べる食事はあまり美味しくないだ
ろう。

 客が帰ったことを伝えると、ヒルデは「そうか」と素っ気なく応じた。
 クオドは、親戚の方ですと大雑把すぎる説明をして、それから「今後の件で」と
言い足した。

「親族同士で対応に揉めていて。こちらの都合で軟禁みたいにしちゃってすみませ
ん。
 お詫びに――ええと、今日はご飯がちょっと豪華ですよ。お客さんがおみやげに
くれた鹿を調理します」

 ヒルデは眉間に皺を寄せた。

「クオド……本当に騎士なのか?」

「はい?」

「いや、なんでもない。気にするな」

 ヒルデは適当な動作で手を振った。何かを誤魔化された気がする。

「……昼食の席、子爵殿もいるのか?」

 ええ勿論と、クオドは頷いた。ヒルデは彼と仲があまりよくないようなので、答
えてからしまったと思ったが、「わかった、出よう」という言葉を聞いてひとまず
安心した。

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2010/01/30 01:21 | Comments(0) | TrackBack() | ○ファランクスナイトショウ
神々の墓標 ~カフール国奇譚~ 13 おまけ/ヘクセ(えんや)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PC:ヘクセ
NPC:食堂のおやじ、旅人
場所:カフール国境近くの食堂
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後、ヘクセは、カフールの国境近くの食堂にふらりと立ち寄った。

「いらっしゃ…い」

店の親父がヘクセの黒マントにフードを目深にかぶった不気味ないでたちに言葉を詰まらせる。
が、ヘクセは気にも留めず、空いてる席に座ると、料理を頼んだ。

一人、腹を満たすべく食事をしていると、二人の旅商人風の男達が入ってきた。

「いらっしゃい。おや、ひさしぶりだねぇ」
「おう親父。ただいま。昼定食あるかい?」
「おうさ。」
「ところで親父、聞いたか?」
「何を?」
「スーリン僧院でひどい事件があったんだぜ」

ヘクセの手が止まる。

「あの武術の総本山かい?」
「あぁ。なんでもそこにいた僧兵全員血祭りで、さらには大僧正も引き裂かれていたらしい。」
「ひどい話だなぁ。そんなむごいこと誰がやったんだい?」
「いや、聞いた話しだと、その直前に黒装束の不気味な女が、あの寺に訪れてたらしい。」
「あそこは女人禁制だろう?」
「あぁ、なのにだ。
 さらには、事件の夜、山からその女が下りてくるのを見た奴がいたらしくてな。
 その両腕には不気味な紋様が刻まれてたとか…。」
「…"紋様の魔女"!」

「ぶふぉっ!!」

ヘクセは思わず咳き込んだ。
何故だか店内の視線が自分に集中している気がする。

「…なんでこうなるかなぁ?」

またしても余計な悪名を増やしたことを実感しつつ、残りのご飯を掻きこむと、ヘクセは逃げるようにその店を後にした。



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2010/01/30 01:22 | Comments(0) | TrackBack() | ●神々の墓標~カフール国奇譚~

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